名古屋市で劇場を経営する「御園座」が、2020年秋に愛知県警から総会屋がトップを務める出版社の雑誌購読をやめるよう求められながら、取引解消までに1年半かかっていたことがわかった。御園座会長の小笠原剛氏(68)は当時、県警を監督する県公安委員会の委員だったが、いったんは購読継続の意向を県警に伝えていた。

 複数の捜査関係者と小笠原氏が朝日新聞の取材に認めた。小笠原氏は「指摘のあった出版社側が総会屋と認識し、取引解消に向けた検討を重ねていた。関係を切るには相応の期間が必要だった」と話した。

 小笠原氏はメガバンクの副頭取などを経て、17年に御園座会長に就任。19年7月に県公安委員に就き、今月9日までの1年間は同委員長を務めた。委員の任期は20日まで。

 捜査関係者によると、県警は御園座から総会屋側に購読料などとして資金が流れているのを把握。雑誌の中身が定価に見合った価値があるとも解釈できるが、支払われた購読料が総会屋活動を支える資金になる恐れがあると判断。20年秋に組織犯罪対策局長が小笠原氏と面会し、総会屋側との取引関係を絶つよう申し入れた。

 この2週間後、同局長は再び面会したが、小笠原氏は「先方には公演の観劇券を買ってもらっている。うちの方が利益が大きい」と購読を続ける意向を示した。その後、翌21年3月になって総会屋を取り締まる捜査4課員が御園座の総務担当者に改めて関係を絶つよう促した。

 小笠原氏によると、御園座は総会屋側に対し、21年は雑誌の年間購読料(7500円)、この雑誌への広告料、総会屋側が主催する講演会への2回の参加費として計約14万円を支払った。支払った理由について「先代やその前の代に企業寄りの総会屋として助けてもらった恩義があり、ずるずると来てしまった」と説明。21年度決算が3期連続の赤字になると見込まれるとして今年2月に総会屋側に取引解消を伝え、3月末で終えたとしている。

 出版社トップの男性は取材に「御園座の株なんて持っていない。総会屋は40年も前に引退した。うちは普通の雑誌だ」と話した。

 御園座を巡っては、別の総会屋への利益供与事件で社長らが2月ごろ県警に事情を聴かれ、書類送検された(3月に起訴猶予処分)。

 民事介入暴力に詳しい尾崎毅弁護士(第二東京弁護士会)は「相手が総会屋だと認識した上で購読料などを支払っていたということは、御園座自体が反社会的勢力の『資金提供者』になっていたと見られてもおかしくない。公安委員は社会的影響があるので、なおさら早く切るべきだった」と指摘する。(松島研人、志村英司)(以下ソースで)

朝日新聞 2022年7月19日 7時00分
https://www.asahi.com/articles/ASQ7L61VPQ7GOIPE01Q.html?iref=comtop_7_03