2022.07.25

髙橋 洋一経済学者
嘉悦大学教授







日本経済を真面目に考えない人たち

安倍元首相亡き後、アベノミクスはどうなるのだろうか。

アベノミクスは、(1)金融政策、(2)財政政策、(3)成長戦略で成り立っているが、(1)金融緩和や(2)積極財政政策を続けるには何が必要か。また(3)成長戦略は、しばしば成果がなかったとされるが、これは「モリカケ」騒ぎのためである側面も無視できない。

「カケ」騒ぎで、国家戦略特区は開店休業状態になった。「カケ」では、過去の本コラムでも書いたが、結局何も出てこなかった。規制緩和の阻止を目論む既得権側に大きく有利となる結果になった。一部マスコミは、(3)成長戦略で成果がないことを指摘するが、「カケ」で空騒ぎしたマスコミにも責任があることをまったくわかっていない愚論だ。

さて、まず(1)金融政策と(2)財政政策のマクロ部分を見てみよう。マクロ政策が変更された場合、日本経済はどうなるのか。

安倍元首相の存在感はあまりに大きかったので誰かがそう簡単に代われるものでない。筆者には不思議でならないが、本コラムで再三繰り返しているようにアベノミクスは世界標準のフレームワークだ。特にアベノミクスの特徴であるマクロ経済政策は世界どこでも同じだ。筆者はきちんと継承されることを信じている。

勉強するだけなら誰でもできる。しかし日本において実際に政策実行するためには、残念ながら政府(財務省)と日銀という巨大組織を政治的に上手く動かさないといけない。そのためには、定見と指導力のある政治家の存在が必要だ。

幸いなことに安倍元首相は、インフレ目標の導入とともに日銀人事を上手く行った。これは有力な先行事例になるので、後に続く政治家が出てくるだろう。

しかし現下の経済情勢で、円安是正のために金融引き締めを主張する意見も出始めている。その出所は市場変動でひと山当てたい市場関係者だ。とても日本経済を考えて出てきたものでない。

もし金融引き締めすれば、たしかに円高になるだろう。しかし、本コラムで再三指摘してきたように、円安で日本のGDPが増大するというメリットが失われる。結果、GDPを減少させ今30兆円程度あるGDPギャップをさらに拡大させ、雇用を失わせるだろう。

もっとも、岸田政権は財務省主導内閣で緊縮基調だ。それは来春に予定されている日銀総裁・副総裁人事にどのような影響するだろうか。

岸田政権において、緊縮派の高田創氏が日銀審議委員になった。その流れからいって、緊縮派が総裁・副総裁になり、何かの拍子で円安回避のために金融引き締めをやる可能性はゼロではない。その場合、日本は再度デフレに逆戻りだろう。

さらに問題なのは、財務省だ。財務省のほうが日銀よりはるかに政治的な組織で政治機構の中枢であるので、その改革は難物だ。

筆者は、財務省が財政データに基づかずに財政危機を煽ってきたことを長年主張してきたが、最近賛同する政治家が増えつつある。いつかは、安倍元首相のように財務省をも説得できる政治家が出てくることを期待したい。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/97853