読売新聞2022/08/17 06:26
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220817-OYT1T50055/

 4大公害病のイタイイタイ病(イ病)を巡り、富山県が2015年以来、7年ぶりに患者を認定していたことが分かった。認定されたのは富山市内の女性(91)で、201人目。従来の審査で判断根拠とされてきた、腰骨を削る「骨生検」ではなく、血液とX線の検査結果などから結論づけた。専門家らは「骨生検を巡っては痛みを恐れ、申請をためらうケースがある。今後も柔軟に認定してほしい」と訴えている。

 女性は今月8日、県知事による認定の通知を受けた。昨春、イ病の疑いがあると診断され、今年1月に認定を申請していた。今後、原因企業から賠償金が支払われる。イ病には司法判断と原因企業との合意書に基づく救済措置があるものの、女性は受けていない。

 イ病の認定には、国が定めた〈1〉カドミウム汚染地域で生活体験がある〈2〉骨粗しょう症を伴う骨軟化症の症状がある――などの4要件を満たす必要がある。審査の認定を担う県は〈2〉を確定するために骨生検を推奨している。

 だが骨生検を受けた後に痛みが残ることは広く知られており、女性は骨生検を避け、カドミウムの血中濃度が正常値の2・5倍とする検査結果や、骨軟化症の状態を示す全身のX線画像を提示。県は審査過程を公開していないが、提出資料から認定したとみられる。

 イ病に詳しい青島恵子・萩野病院長(富山市)によると、骨生検による身体的負担を嫌がり、生存中の申請を断念する高齢者がいるといい、県が1998年以降に認定した患者20人中、6人は死亡後の病理解剖などによる認定だった。

 被害者団体「イタイイタイ病対策協議会」(同市)の小松雅子会長は「潜在的な患者は相当数いるはずで、骨生検なしで認定できるなら申請は増える。高齢化を見据え、県は認定を進めるべきだ」と話す。青島院長も「今後も血液検査などで診断した主治医の判断を尊重してほしい」と語る。

  ◆ イタイイタイ病 =三井金属鉱業神岡鉱業所(現神岡鉱業、岐阜県飛騨市)の鉱山から排出されたカドミウムで腎臓が障害を受け、骨が極端にもろくなる病気。富山県の神通川流域で発生し、国は1968年に全国初の公害病として認定した。72年には、原因企業を相手取った損害賠償請求訴訟で患者側が全面勝訴。認定患者に賠償金や医療費が支払われることになった。

■「元気なうちに」安堵
 「毎晩、神様に『お願いします』と祈っていた」。7年ぶりにイタイイタイ病患者と認定された富山市の女性(91)は、審査結果に 安堵あんど の表情を浮かべた。

 神通川流域で育った女性は幼い頃から川の水を飲み、近くで収穫されたコメを食べて育った。足や膝に痛みを覚えたのは40歳過ぎ。国がイ病を公害病と認定した1968年の数年後で、身近に患者がおらず、公害が原因だとは思わなかった。

 70歳を過ぎると就寝中も全身の痛みで目覚めるようになった。転倒などで足の骨や骨盤が折れ、5年前から歩行につえが必要になった。昨春、イ病に間違いないと診断され、原因が分かって胸のつかえが取れた。

 1月の申請時、県が推奨する骨生検を「痛そうだから怖い」と断った。それだけに審査結果が心配だったといい、女性は「皆さんのお陰で元気なうちに受かりました」と語った。


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