Diamondオンライン 武藤弘樹 2022.8.27 4:50
https://diamond.jp/articles/-/308680

写真を撮る際の定番だった「はいチーズ!」。最近は聞かなくなったように感じるし、中高年からは「使ってしまうけど、そろそろ古いのでは…」という不安げな声が聞かれる。はたして「はいチーズ」は死語となってしまうのか、あるいは、すでに死語なのか。

●中年以上に“注意報”発令! 「はいチーズ!」が嘲笑される可能性
中高年世代、および1980年生まれの筆者と同世代には、驚がくの事実、かつ大変おそろしいお知らせである。

写真を撮る際に、撮影者がシャッターを押すタイミングを知らせる掛け声の中でも最もポピュラーな「はいチーズ!」を、今の若い人たちは使わないかもしれない――というのである。

このうわさは、若者のカルチャーに必死で食らいつこうとしがちな傾向のある中年世代には特に捨て置けぬものであろう。何も知らずに無垢(むく)な気持ちで「はいチーズ」と言おうものなら、若者に陰で嘲笑されるおそれがある。

それを知った上で、己の矜持と生きざまを示すべく「はいチーズ」を使い続けるという選択肢もあるにはあるが、誇りを懸けて守る対象として「はいチーズ」はやや締まらない。

筆者は、「はいチーズ」は妙な恥ずかしさがあるので、使うのを徹底して避けている。だから安全圏にいるのだが、そうはいっても撮影時の「はいチーズ」は、朝に「おはよう」と言うくらい、自然な慣用の句である。「はいチーズ」がない世界には違和感を覚えざるを得ない、「はいチーズ」育ちの世代なのである。

本稿では、「はいチーズ」が使われているかの実情の調査と慎重な考察を加えたい。

●「はいチーズ」が恥ずかしい理由 1人で道化を演じる公開処刑
「はいチーズ」の由来は、英語の「say cheese」をそのまま模したものだといわれている。

「say cheese」は直訳すると「チーズと言え」であり、脅迫的な言動であるが、英語は非常にフレキシブルな言語で、発声するニュアンスや文脈で意味を七色に変えることができるから、楽しげに「say cheese」と言えば「チーズって言ってね」という意味で伝わる。だから「say cheese」の日本語訳として生まれたのが「はいチーズ」だった。

「チーズ」と言う時、口角が上がって笑顔っぽく見えるため、「皆さん、今から写真を撮影するので、極上の笑顔をおひとつ、お願いいたします」という含意が、「はいチーズ」にはある。

写真撮影時の掛け声として代表的なものは、他に「1+1は?」「にー!」がある。個性派カメラマンは母音の「イ」を引き出すためのオリジナルのコール&レスポンスをひそかに用意していて、集合写真を撮る際に突然「ショッカーの掛け声はー?」などと聞いて(※正解は「イーッ!」)、群衆を戸惑わせざわつかせる光景が、かつてはあった。

さて、その「はいチーズ」であるが、前述の通り筆者は妙に恥ずかしくて使ってこなかった。

しかし、同じように感じていたのは筆者だけではなかったらしい。改めて探ってみると各所で「『はいチーズ』は恥ずかしい」という声を実によく耳にする。しかし、いくつかのアンケート結果を参照したところ、写真撮影時に使われる掛け声として「はいチーズ」がダントツでポピュラーのようだ。そのため、実は撮影者も恥や疑問や葛藤を乗り越えた末に発していることが多いようである。

以下は、「はいチーズ」に疑問を持つ人たちである。

「使ってて、自分でもどうかと思う」(40代女性)
「『チーズ』はないでしょ」(40代男性)
「掛け声として適切でない。常軌を逸している」(30代女性)
 普段から「はいチーズ」によって辛酸をなめさせられているためか、舌鋒も鋭くなっている様子である。また、気づきを与えてくれる指摘もあった。

「撮られる人たちをニコーっとさせたくて言っているはずの『はいチーズ』は、実際は撮る人しか言っていなくて、撮られる人は無言だから、撮る人の孤立感がすさまじい」(30代男性)
これは、たしかにその通りである。「はいチーズ」を発するのは撮影者のみである。そしてそれを受けて、向こうにずらっと控える多数の人は無言である。撮影者は自分だけが道化を演じなければならないような屈辱を、公衆の面前で強制される。平穏な日常に潜む公開処刑であり、あの、えも言われぬいたたまれなさと、世間で多くの人が感じている「はいチーズ」忌避感は無関係ではないであろう。

●カメラの変化に応じた撮影スタイルの変化 シャッターチャンスの増加

※以下リンク先で