「給与デジタル払い」の誤解と実際。労働者、○○Pay、銀行のメリット
鈴木 淳也/Junya Suzuki2022年11月1日 08:20

厚生労働省は10月26日に開催した第181回労働政策審議会労働条件分科会において、給与を電子マネーで支払う、いわゆる「給与デジタル払い」制度導入を視野に入れた労働基準法の省令改正案を了承した。公布日は今年11月を予定しており、施行は2023年4月1日からとなる。

(中略)

ただし、労働者側の視点で見たとき現時点で問題がないわけではない。

具体的には「資金移動業者のアカウントを給与振込先としたとき、税公金や家賃を含む毎月の口座引き落としに対応できるのか?」「強制は労働基準法違反としながらも、実際には給与振込先の銀行口座の指定などで強制がまかり通っており、『給与デジタル払い』でも同様のことは起きないのか?」「資金移動業者のアカウントと銀行口座のリンクが前提であり、そもそもの制度の発端となった『外国人への給与払い』には向かないのでは?」という3つの問題が存在する。

1つめについては資金移動業から支払える仕組みが整備されつつあり、税公金についてもクレジットカードなどを含む複数のキャッシュレス決済手段の受け入れが進みつつある。

ある程度は時間が解決すると思われるが、そもそも資金移動業者のアカウントで保持できるのは100万円までであり、税金や各種引き落としを一括で行なった場合に上限に近付くケースが想定され、非常に使い勝手が悪い。また資金移動業のアカウントの性質そのものが「普段使いのための一時的な残高の置き場所」であり、給与口座として考えたとき、小まめに残高を調整しないと100万円の上限をすぐにオーバーしてしまう。

アカウントの残高が一定額を超えると自動的に銀行口座に戻す仕組みが求められるが、それならば最初から銀行口座に振り込めばいいわけで、あえて「給与デジタル払い」を使う意味が薄い。

3つめの「日本での銀行口座を作りにくい外国人」の存在も考慮すれば、これは「(100万円が上限の)資金移動業」の根本的な問題ともいえる。実際のところ、現状の使い勝手のままでは労働者側のメリットが薄いのだ。

そして2つめの「振込先口座の強制」だが、労働者側でメリットが薄いにもかかわらず、雇用者側があえて強制するようなメリットがあるのだろうか。
https://www.watch.impress.co.jp/docs/series/suzukij/1452099.html