戦後前例のない規模の防衛力増強

防衛費の大幅な増額、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入──日本の防衛政策の大転換を米紙「ワシントン・ポスト」が分析。それは東アジアの安全保障体制と日米同盟にどう影響するのか。

「第二撃能力」の確保へ
日本は戦後前例のない規模の防衛力増強に動いており、その一環として米国製巡航ミサイル「トマホーク」を数百発購入する計画だ。高まる安全保障上の脅威とインド太平洋地域での戦争リスクに危機感を募らせていると、日米両政府関係者が指摘する。
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トマホークを数百発(一部の説では400~500発)購入するという決断は、日本が本気で自衛を考えていること、そしてこの地域で間違いなく軍事的に最も重要な二国間同盟が中国と北朝鮮の脅威に直面して一層強固になっているということを、中朝両国に知らしめるだろうと関係者らはみている。

「このシステムの導入は、反撃能力に関して大きく前向きな変化を象徴するものになる」と、ある日本政府関係者は言う。射程が1000マイルを超えるトマホークは、中国本土の軍事目標を射程圏内に収められる。

たしかに、日本は2014年に憲法解釈を変更して同盟国が攻撃された場合の軍事行動を可能にするなど、従来の自衛重視の方針から徐々にシフトしてきた。だが、そうした変化もこれまでは漸進的だった。

それが今、急速に変わろうとしているのだ。

ウクライナ侵攻の衝撃

その急展開の一因は、ウクライナでの戦争だ。

ロシアによるウクライナ侵攻は、自民党が反軍国主義的な国民感情を抑えて強力な国家安保戦略を推進できるような土壌を作り出すうえで「絶対的に」重大な要素だったと、前出とは別の日本政府関係者は語る。

世論調査によると、日本政府が「反撃能力」と呼ぶものに対する国民の支持は、ウクライナ侵攻後に明らかに高まっており、2020年7月の37%から22年6月には60%超に達している。
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トマホーク購入の意味

日本はトマホークを5年程度で配備できる「一時しのぎ」の兵器と見なしている。地上の軍事目標を同じく遠くから攻撃できる国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」の射程改良に取り組んでいるからだ。この改良プロジェクトは10年がかりになる可能性が高いと専門家はみている。
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有事に米国を味方につけるには

内情に詳しい関係者によると、秋葉剛男国家安全保障局長は22年5月、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)とワシントンで会談し、トマホークの購入構想を持ちかけた。サリバンは受け入れる姿勢を示し、秋葉に「検討のプロセスに入る。引き続き連絡を取り合おう」と伝えたという。

日本政府は依然として国内の反戦感情に敏感で、かたくなに兵器を自衛の枠組みにはめ込んでいる。「防御的なものであって、攻撃的なものではない」というのが日本の姿勢だと、政府関係者は強調する。そうしたなかで、今回のトマホーク購入は「極めて異例のことであり、非常に重要な意味がある」と言う。

西側諸国はウクライナ侵攻をめぐってロシアに経済制裁を発動し、日本はアジアで初めて制裁に加わった。結果としてロシアは日本を「非友好国」に指定し、周辺での軍事活動を強化している。

CSISのジョンストンによると、ウクライナが分の悪い戦いに立ち向かう意思を示した後、NATOの同国支援が拡大した経緯を目の当たりにした日本政府は、「危機の際に米国などの国々を確実に味方につける最善の方法は、自国の防衛に投資し、戦う用意がある姿勢を示すことだと結論づけた」と指摘する。「日本にとってはこれがウクライナ戦争の重要な教訓だ」

実際、日本はハードウエアの導入や支出の拡大にとどまらず、防衛体制にさまざまな形で著しい変化をもたらそうとしている。防衛省は、サイバー攻撃に対処する自衛隊の要員を現在の約800人から2027年度までに2万人規模に増やす方針を固めている。

政府はまた、自衛隊が民間用の港湾や空港を平時から利用しやすくなる仕組みも検討している。有事の際の対応をめぐる懸念がここにも表れている。

courrier 2023.1.3
https://courrier.jp/news/archives/311518/