ロシア産冷凍カニ 対日輸出量の20倍を日本が輸入の怪 密漁・密輸の規制逃れで… 本紙とWWFで共同調査

 違法、無報告、無規制な漁業を総称するIUU漁業の横行が問題視されているロシアのカニ漁業に絡み、本紙と「世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)」が過去10年間の日ロ間の冷凍カニの輸出入状況を示す国連の統計資料を共同調査したところ、ロシアの日本への輸出量に比べ、日本のロシアからの輸入量がはるかに多い不自然な状態が続いていることが分かった。最大で年20倍も輸入量が輸出量を上回っていた。背景には第三国を絡めた国際流通ルートの複雑化があり、IUU漁業撲滅のための規制強化が骨抜きになりかねない実態がみえてきた。(前口憲幸)
◆輸出入量は約20倍、金額は40倍近いギャップ
 国連の統計資料で2011年から20年までのデータをみたところ、輸出入量の差が最大だったのは19年で、ロシアの輸出量680トンに対し、日本の輸入量は20.9倍の1万4200トンに達していた。金額ベースでは輸入額(3億3700万ドル)が輸出額(890万ドル)の40倍近くになる。
 こうした輸出入量の不自然な相違は11年以前から確認され、両国は密漁、密輸などIUU漁業の横行が要因とみて防止のための2国間協定を締結、14年12月に発効した。以降、ロシアからカニを輸入する際はロシア政府発給の証明書を求めるなど手続きを厳格化してきた。IUUは英語の違法、無報告、無規制を表す単語の頭文字だ。
 発効した14年と直後の15年をみると、輸出入量の差はともに6倍弱に縮小しており、一定の効果があったとみられる。しかし、16年以降は再び拡大傾向となり、新型コロナウイルス禍で輸入量が大幅に減少した20年を除き、10倍以上の差が続いてきた。
◆日ロ間協定での規制が逆に…
 再び輸出入量の差が拡大した理由は何か。
 共同調査では日ロ間の協定発効以降、ロシアの輸出先としてオランダが急伸していることが判明。13年に2330トンだったロシアの輸出量が21年には8倍の1万8800トンに増大しているが、オランダ側の輸入量はゼロ近くで推移。オランダには関税を支払わずに外国貨物を保管できる大規模な保税地域があり、急伸分はほぼ全量が通関しないまま日本など他国へ移送されているとみられる。
 ロシアの冷凍カニが第三国を介して日本に輸入される場合、IUU漁業の防波堤になるロシア政府の証明書は必要なくなり、中継国で発行された原産地を示す書類があればいい。その際、ロシアの統計上の輸出先は中継国だが、日本の輸入元は原産地のロシアになるため、日ロ間の輸出入量に差が生じるというわけだ。
 経済産業省によると、オランダでは商工会議所が原産地の書類を発行する。ロシア産冷凍カニの中継貿易に携わる東京の水産事業者は「ロシア政府の証明書と比べれば楽に取れる。日ロ間の規制がきつくなった代わりに抜け道として伸びたのがオランダ。中継貿易自体は合法だが、IUU漁業が入り込む余地は大きくなっている」と話していた。
 WWF 1961年にスイスで設立された国際非政府組織(NGO)で、世界最大規模の自然環境保護団体。豊かな生物多様性、地球温暖化防止などを掲げ、100カ国以上で活動。500万人以上のサポーターが支援する。WWFジャパン事務局は東京都港区。職員約100人。基本財産14億8923万円(2019年6月現在)。国内サポーターは個人約5万人、法人約420社で、人と自然が調和した持続可能な社会の実現を進めている。

東京新聞 2023年1月16日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/225458