「厳格なデカップリング」考えられない-デービッド・ダラー氏
政治的緊張激化の影響が大きいのは貿易よりも固定資本の流れか

米国と中国の昨年の貿易額は過去最高を更新する方向にある。ワシントンで中国を国家安全保障面の脅威と見なすレトリックが白熱し、米中デカップリング(切り離し)の懸念がある中でも、両国経済の結び付きの強さを浮き彫りにする形だ。

  米政府の2022年1-11月のデータは、輸出入を合わせた通年の米中貿易額が過去最高か、少なくともそれに極めて近くなることを示唆している。米商務省は2月7日に昨年12月の貿易収支統計を発表する予定だ。中国税関総署が先に発表した貿易統計では、昨年の両国貿易額が計約7600億ドル(約97兆7000億円)と、過去最高を更新したことが示された。

 これには多少警告すべき点がある。(略)それでも現在のワシントンにおいて、超党派のコンセンサスに最も近いものが対中強硬姿勢である点を踏まえれば、こうした数値は目を引くものと言えそうだ。米国が中国の台頭を阻止しようとし、中国が米国の世界的影響への対抗を目指す状況にあっても、米中が経済的にいかに深く絡み合っているかを物語っている。

 米ブルッキングズ研究所のシニアフェロー、デービッド・ダラー氏は「テクノロジーを巡って戦争状態にありながら、それ以外は全て非常に強力な貿易関係を維持することが可能かを問えば、その通りだというのが私の直感だ」と指摘。「それは経済効率に基づいており、企業がそのように望み、物品・サービスを消費者に提供するのを可能にしている」と説明した。

  ダラー氏はさらに、ワシントンの一部で提唱されているような「厳格なデカップリング」は米国の生活水準に「大きなマイナス効果」を及ぼすことになるとし、「レトリックがどうであれ、米国の政策がそのような方向に進むとは全く考えていない」と話した。

  一方、米中間に近年見られる政治的緊張激化の影響が一段と大きいのは貿易よりも固定資本の流れかもしれない。

  調査会社ロディアム・グループで米中間の直接投資を調べているティロ・ハネマン氏は、米企業が対中新規投資のペースを落としており、多くの企業にとって「リスクと報酬の計算からは中国での操業継続には負の方向に傾いている」とコメント。企業は地政学的緊張に加え、中国自体の成長見通しに懸念を抱いており、「投資家が撤退している証拠がはっきり見られる」と語った。

 ただ、中国に多額の投資を行い、今後も長期にわたってとどまる姿勢を示している大手企業は多い。グローバル企業の多くは対中投資を続ける用意がある。

  ユーラシア・グループのシニアアナリスト、アリ・ウィン氏は「デカップリングのレトリックが現実よりも先走りする状況が続いている」とした上で、米中は「経済関係を完全に断ち切るのは不可能ではないとしても、困難だと認識するだろう」と解説した。

Foreign Direct Investment in China
ブルームバーグ 2023年1月17日 17:20 JST
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-01-17/ROM9OZDWRGG401