【ワシントン=高見浩輔】バイデン米大統領は14日、米連邦準備理事会(FRB)のブレイナード副議長を国家経済会議(NEC)委員長にあてる人事を発表した。金融緩和に積極的な「ハト派」と目される副議長が任期途中で去ることになる。景気の悪化より高インフレの抑制を優先するFRBの姿勢がやや強まり、金融引き締めが長期化しやすくなるとの見方がある。

ブレイナード氏は14日付けで辞表を提出した。FRBによると20日前後に正式に退任する。パウエル議長は「FRBが行ったすべての事柄に、恐るべき才能と素晴らしい結果をもたらした」と謝意を示すコメントを出した。

バイデン政権は2024年の大統領選を見据えた経済チームの布陣固めとして、財務長官やFRB議長の候補にもなった重量級のブレイナード氏をホワイトハウスに迎える。1993年に設置されたNECは経済政策の調整を担う要職だ。

経済政策の立案についてアドバイザーとなる米大統領経済諮問委員会(CEA)の次期委員長には、委員であるバーンスタイン氏を昇格させる。

野党の共和党は米議会下院の過半数を握り、政府債務の上限引き上げを巡って歳出削減圧力を強めている。リベラル派と保守派のどちらにも極端に偏らないブレイナード氏のバランス感覚に期待がかかるが、「ねじれ議会」で新たな経済政策を実現する余地は乏しい。

当面はイエレン米財務長官とともに22年に成立したインフレ抑制法などの予算執行を推進する見通しだ。冷戦期のポーランドで育った経歴を持ち、ロシアのウクライナ侵攻についても積極的に発信をすると予想されている。

ブレイナード氏には中央銀行関係者の間で「政治的な野心が強い」との評もある。複数の米メディアは、24年以降も民主党政権が続いた場合にブレイナード氏が財務長官候補になるとの見方を示している。イエレン財務長官やバーナンキ元FRB議長もFRB理事の任期中にCEA委員長に抜てきされた後、重用された経歴を持つ。

ブレイナード氏は21年11月にバイデン氏によってFRB副議長に指名された。人事案が約半年後の22年5月に議会に承認されるまでの間、歴史的な高インフレに対する急ピッチの利上げを積極的に支持する発言が目立った。だが、もともとはハト派とされる。最近の講演では金融引き締めの副作用を強調する機会が増えていた。

22年3月から始まったFRBの利上げは、政策金利の到達点を探る終盤戦にさしかかりつつある。利上げが打ち止めになれば、次は利下げ転換によって金融引き締めを終結させる時期が焦点になる。

パウエル議長は金融引き締めが中途半端に終わって高インフレが長期化した1970年代の経験を踏まえ、早期の利下げ転換には慎重な姿勢を何度も強調している。これに対し、ブレイナード氏はFRBのメンバーのなかでも比較的早期の利下げを主張する可能性があるとみられていた。

バイデン氏が後任を指名する際にもブレイナード氏の意向が反映される見通しだ。だがハト派色の強い候補が指名されても、実際にはねじれ議会のなかで承認されず空席が続く可能性もある。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは副議長の後任候補として、FRBのクック理事やボストン連銀のコリンズ総裁のほか、ハーバード大のカレン・ディナン教授、カリフォルニア大のクリスティーナ・ローマー教授が考えられると指摘した。

日本経済新聞 2023年2月15日 6:41 (2023年2月15日 7:28更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN14DZO0U3A210C2000000/