政府が防衛力の抜本的強化を進めていることを受け、研究者らが課題を検証する市民向けの講座を開く動きが活発になっている。新型コロナウイルス対策が定着したことで、対面での開催が再開される一方、オンライン配信も広がりを見せている。多様な手法で学びの機会を提供することで、世論の喚起を図っている。

 憲法学者や政治学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」は2月5日、岸田政権が2022年12月に改定した国家安全保障戦略など安保関連3文書をテーマにした「立憲デモクラシー講座」を早稲田大(東京都新宿区)で開いた。同会は第2次安倍政権が集団的自衛権の行使容認を目指していた14年に設立し、継続的に市民向けの講座を開いてきた。新型コロナ感染拡大を受けて対面での講座は19年12月から途絶え、3年2カ月ぶりの開催となった。

 この日は5期目となる講座の初回で、ベストセラー「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」などで知られる加藤陽子・東京大教授(日本近代史)ら研究者3人が登壇した。事務局の小原隆治・早大教授(政治学)によると、コロナ下で動画配信を強化。会場の小野記念講堂に約100人が集まったほか、ウェブメディア2社がライブ配信して計700人が視聴し、アーカイブ映像の視聴回数も1週間で計3万回に迫った。

 歴史家の視点から安保関連3文書を読み解く加藤さんは「歴史から学べることは」として、日本が1930年代半ばに二つの海軍軍縮条約から脱退し、米国との建艦競争を甘く見て太平洋戦争に敗れたことを紹介。「(当時の)米国は限りなくモノを造れて、限りなく金を使える国。それが今の中国。だから、中国と軍拡(競争)はやっちゃダメ。日本側は付き合ってはいけない」と警告した。

 同会は3月以降も毎月1回、日米関係や安保をテーマにした講座を開く予定だ。小原さんは「最近の政治状況を座視できず、講座を再開した。タモリさんが(22年末にテレビの対談番組で)『新しい戦前になるんじゃないでしょうか』と言ったが、私たちが大切に守り育ててきた『戦後』を終わらせるわけにはいかない。安保関連3文書の危うさを伝えていきたい」と強調する。

2/16(木) 21:00配信
毎日新聞

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