発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFASピーファス)が、相模原市内の地下水や河川水から高濃度で相次いで検出されている。最も高い地点で国の暫定指針値の30倍に達する。高濃度PFASは、各地の工場や米軍基地周辺などで検出され問題化している。市内の汚染源は特定されておらず、検出されたPFASの成分にばらつきがあり、識者は「複数の汚染源がある可能性」を指摘する。(松島京太)

 <有機フッ素化合物> PFOAや(ピーフォア)PFOS(ピーフォス)など多数あり、総称はPFAS。水や油をはじく性質があり、泡消火剤や塗料、フライパンのコーティングなどに幅広く使われてきた。環境中でほとんど分解されず、人や動物の体内に蓄積されやすい。がんや心疾患による死亡リスク上昇との関連や、出生体重が減少する恐れが指摘され、近年、国際的に使用の禁止や規制が進む。日本の地下水などの暫定指針値はPFOAとPFOSの合計が1リットル当たり50ナノグラム。

 市は2021、22年度に市内40余りの地点で、河川水や地下水のPFAS濃度を調査。神奈川県が20年度に実施した調査で、市内の河川水から高濃度で検出されたのがきっかけだった。
◆工場など密集 南橋本で最高値
 市の調査で、最も高かったのは工場などが密集する中央区南橋本の地下水で、1リットル当たり約1500ナノグラム(ナノは10億分の1)。国は水道水や河川など環境中の水の暫定指針値を同50ナノグラム以下と設定しており、その30倍に相当する。

 また、中央区上溝の道保川公園の湧水を水源とする道保川からは約340ナノグラムを検出した。道保川公園から約3キロ北には、兵たん業務を担う米軍相模総合補給廠しょうがある。
 ただ、汚染源につながる証拠はなく、市の担当者は「汚染源がどこにあるのかは、全く分かっていない。引き続き市全域で調査を継続していきたい」と話す。
◆水道水は健康被害の懸念低いが、200超の井戸は‥‥
 神奈川県水道局によると、市内の水道水は地下水を使用していない上、道保川下流の相模川の取水源では高濃度で検出されていない。担当者は「現状では水道水による健康被害の懸念は低い」と話す。
 一方、市生活衛生課の調べでは、住民や事業所などが200カ所を超える飲み水用の井戸を所有しているとみられる。市は南橋本周辺の井戸所有者に飲料に使用することを控えるよう呼びかけている。
 市の調査で検出されたPFASの成分をみると、南橋本ではPFOAの数値が突出している一方で、道保川はPFOSの数値が高かった。PFASに詳しい京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「同じ汚染源から漏出していた場合、PFOSとPFOAの比率は近くなるケースが多く、汚染源は複数ある可能性が考えられる」と説明する。
 中央区南橋本には、過去にPFASを使った製品を製造していた工場があり、工場を所有する企業の広報担当者は取材に「現在は製造や研究で使用していない」と回答した。
 本紙は、補給廠を管理する在日米軍の広報担当に質問状を送ったが、1日までに回答はなかった。
 PFASを巡っては、東京・多摩地域の米軍横田基地周辺の地下水から相次いで高濃度で検出され、これまでに都水道局の井戸34本が取水停止となっている。
◆京大と本紙で井戸水の無料検査をします
 相模原市で高濃度PFASが相次いで検出されていることを受け、東京新聞と京都大の原田浩二准教授の研究室は、市内の地下水や河川水のPFASを分析するため共同調査します。10種類以上のPFASの成分を調べ、汚染原因を探ります。
 PFASにはPFOSやPFOAのほか、米軍などが使用する泡消火剤に含まれる特有の「6:2FTS」などがあり、これらの成分量を分析することで、検出されたPFASの由来を推定します。また、汚染が集中する中央区を重点的に調べ、汚染源施設をたどることも目的とします。
 主に中央区の住民や事業所で使用している井戸水について、希望者にPFAS濃度を無料で検査します。検査は最大30カ所の予定で、希望者が多い場合は対応できないこともあります。結果は報道と研究の目的のみに使用し、それぞれの結果を個別に通知。紙面掲載では、場所が特定できないよう配慮します。
 調査に協力していただける方はメール=matsushima.k@chunichi.co.jp=で連絡ください。