日銀の次期総裁人事が10日、国会の承認を経てようやく決まった。岸田文雄首相は、アベノミクスの柱である大規模金融緩和を当面続ける姿勢を示す経済学者の植田和男氏を選び、自民党最大派閥・安倍派との衝突を回避。ただ、植田氏がいずれ金融政策の正常化を探り始めれば、首相を巻き込んだ対立の再燃は避けられないとの見方が、党内には根強い。

 松野博一官房長官は10日の記者会見で「日銀には植田新総裁の下、政府と連携し、適切な金融政策運営を期待する」と述べた。
 これに先立つ政府・与党連絡会議では、自民党の高木毅国対委員長らが「人事案に同意を得られた」などと報告。ただ、首相のあいさつを含め、それ以外は話題に上らなかった。
 首相官邸サイドによる総裁候補の人選は難航した。次期総裁は弊害も目立つ大規模金融緩和からの「出口」模索が最大の課題。ただ、かじ取りを誤れば景気を冷え込ませ、世論の批判を浴びる恐れは否定できない。「火中の栗を拾いたがる人はほとんどいなかった」(首相周辺)のが実情だ。
 一方、安倍派は「アベノミクス反対の候補なら首相を支持できなくなる」と水面下でけん制。党内基盤の弱い首相は「将来の出口戦略を見据えつつも、アベノミクスを当面維持する候補」を選ぶ必要があった。その条件をクリアしたのが戦後初の学者出身総裁となる植田氏だった。
 アベノミクスを巡る立場を曖昧にしたまま人事を乗り切った首相だが、党内対立の火種は依然くすぶったままだ。茂木派の閣僚経験者は「安倍路線を変えなければならない時が来る」と指摘。二階派のベテランも「安倍派との対立など恐れていられない」と語る。
 安倍派の世耕弘成参院幹事長は最近、「異次元の緩和」を疑問視した白川方明前総裁に対し、「白川総裁時代に金融緩和を行わなかったことが、深刻なデフレに日本が陥った最大の原因だ」と猛反発した。10日の会見でも「2%の物価安定目標を達成するまではしっかり金融緩和姿勢を続けることが重要だ」と次期総裁にクギを刺した。

時事通信 2023年03月11日07時12分
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