賃上げの流れが大企業から中小企業に広がるには、人件費の上昇分を販売価格に転嫁できるかが鍵を握る。今月半ばに首相官邸で開いた「政労使会議」に中小企業団体が提出した資料では、原材料上昇分の価格転嫁を講じる企業が約8割に上る一方、人件費は約2割止まり。人手不足から中小企業への賃上げ圧力は高まるが、賃上げ分を利益で吸収できなければ広がりや持続性を欠きそうだ。

 昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻で拍車が掛かった原材料価格の高騰を取引価格に反映させる動きは広がっている。全国中小企業団体中央会(全国中央会)が、政府、労働界、経済界の代表による政労使会議で示した調査結果では、原材料上昇分の価格転嫁を実施・予定していると回答した企業は約8割に上った。

 一方で、人件費の転嫁は製造業で20.7%、卸・小売業は10.2%にとどまる。全国中央会の森洋会長は「原材料の転嫁に比べると、人件費などは転嫁を認めてもらえない状況だ」と訴えた。
 こうした状況について、帝国データバンクの担当者は「人件費は原価を示した価格交渉が難しいことも背景にある」と指摘する。同社が昨年12月に実施した調査では、価格転嫁に成功した企業に理由を聞いたところ、最も多かったのが「原価を示した価格交渉」で4割超に上った。人件費に関しては「経営努力での吸収を求められることも多い」と、中小企業団体の関係者は話す。
 中小企業の賃上げ実現には、中長期的にデジタル化投資などを通じた生産性向上も必要だが、「即効性という意味では人件費を含めて価格転嫁できる環境整備が必要」(別の中小企業団体関係者)との声も上がる。岸田文雄首相は政労使会議の席上、「中小・小規模企業の賃上げ実現には、労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠だ」と強調。公正取引委員会による調査などを通じて人件費の価格転嫁に関する指針を取りまとめる方針だ。

時事通信 2023年03月28日07時04分
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