2023年4月25日 12時00分

 国会で審議中の入管難民法改正案について、国連人権理事会の特別報告者らが「国際人権基準を満たしていない」として、抜本的な見直しを求める共同書簡を日本政府に送った。人権の専門家による厳しい評価なのだが、政府は耳を傾けるどころか「一方的な公表に抗議する」と反発した。特別報告者に対するけんか腰で、やや子どもじみた政府の反応。実は、今に始まったことではない。(岸本拓也、中沢佳子)

◆書簡の内容は? 「徹底した内容の見直しを」

 「今回の共同書簡は、改正法案の国際人権法違反について、前回の国会提出時と変わっていないと指摘したものだ」。21日、書簡の公表に合わせ、国内の人権団体関係者らが開いた記者会見で、登壇者は強調した。

 書簡は、国連人権理事会の移民の人権に関する特別報告者、宗教と信条の自由に関する特別報告者、恣意しい的拘禁作業部会が出した。

 特別報告者は、日本も参加する人権理事会に任命された専門家だ。独立性を持ち、人権に関して、国やテーマ別に調査や勧告を行っている。日本の入管難民法改正案を巡る特別報告者の共同書簡は、2021年の改正法案に続いて2回目となる。

 前回の改正法案は、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが入管施設で死亡した問題の影響で廃案となった。政府は、今国会で改めて改正法案を提出したが、書簡は「若干の修正はあるものの、旧改正法案と基本的に同じで、国際的な人権基準を下回っている」と切り捨て、「国際人権法の下での義務に沿うために、徹底した内容の見直しを」と求めた。

 具体的には、在留資格のない人らの原則収容主義が維持されているため、日本が批准し、「収容は例外で、自由を原則」とする「自由権規約」などに反する可能性があると指摘した。

 施設収容せず、国外退去まで家族や支援者ら「監理人」の下で暮らす新制度「監理措置」を設けたものの、運用は出入国在留管理庁の裁量次第で不十分と評価した。

 また、収容期限の上限がなく、子どもの収容も禁止されず、収容を巡って裁判所などの司法審査が欠如したままである点も問題視。3回以上、難民申請した人らの強制送還を可能とする規定についても、「迫害を受ける危険のある国へ送還してはならない」とする難民保護の基本「ノン・ルフールマン原則」を損なうとの見解を示した。

◆斎藤健法相「わが国への法的拘束力もない」

 冒頭の記者会見では改正案の廃案を求める声が相次いだ。ヒューマンライツ・ナウ事務局長の小川隆太郎弁護士は「これだけ多くの問題が指摘されている以上、マイナーチェンジでは済まない。廃案にして、国際条約と適合した難民法制にすることが求められる」と主張。恣意的拘禁ネットワークの浦城知子弁護士は「今回の改正案でも、あらゆる場面で入管の裁量権が維持されている。収容に絡む悲劇を防ぐには、入管の権限に枠をはめないといけない。廃案にして一から見直す必要がある」と訴えた。

 一方の日本政府は反発する。21日の衆院法務委員会で、本村伸子議員(共産)から書簡について見解を問われた斎藤健法相は「特別報告者個人の資格で述べられたもので、国連や人権理事会としての見解ではない。またわが国への法的拘束力もない」と反論した上で、事前に日本政府が改正案について説明する機会がなかったとして、「一方的に見解が公表されたことについては抗議する。(書簡の)誤認に基づく指摘を明確にし、法案の適格性を理解していただくよう、説明していく」と述べた。

 「今回の書簡の日付は18日で、公表は21日。政府に書簡を送付し、48時間置いて公開する国連のルールに基づいている」。会見に出席した全国難民弁護団連絡会議の鈴木雅子弁護士は、斎藤法相の抗弁に首をかしげる。「『一方的な公表』という主張は適切ではない。国内向けのパフォーマンスで発言したように思える」と批判する。

 「法的拘束力がない」という主張についても、前出の小川弁護士は「書簡は法的拘束力を持った国際人権条約に基づいて、国連が示した解釈だ」と強調する。

 2021年の国会提出時に続いての特別報告者からの書簡について、入管庁の担当者は取材に「21年の時も誤認があることを含めて指摘し、抗議した。(今回も)内容を精査し、適切に対応する」とあくまで対決姿勢のようだ。

以下略、続きはソースで
https://www.tokyo-np.co.jp/article/246026