60年を超える原発の運転延長を可能にする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が27日、衆院を通過した。エネルギーの安定供給と脱炭素の実現に向け、東京電力福島第1原発事故後の原子力政策は「原発回帰」へ大転換の節目を迎える。ただ、60年超の安全規制は検討がようやく始まったばかりで、具体的なルールづくりには曲折も予想される。

原発の60年超運転は、原発の最大限活用にかじを切った岸田政権の「GX実現に向けた基本方針」に盛り込まれた。政府は今国会での法案成立を目指しているが、福島事故後に現行の原子炉等規制法(炉規法)で定めた「原則40年、最長60年」の運転期間ルールは大きく変わる。


具体的には、原子力規制委員会の安全審査などで停止した期間をカウントから除外し、実質的に60年を超える運転が可能になる。仮に10年止まれば、最長70年まで稼働できる仕組みだ。運転期間は規制委が所管する炉規法から削除し、経済産業省が所管する電気事業法に移管され、延長認可も経産相が判断する。

最長60年の運転ルールは、福島事故の反省から定めた上限だが、海外に目を向けても、60年超の運転実績がある原発はない。国際原子力機関(IAEA)によると今年1月現在、運転が世界最長の原発はインドのタラプール原発1、2号機の53年2カ月。一方で米国では40年超運転の原発6基が、80年まで運転延長を認可された例もあり、運転延長について世界基準があるわけではない。


規制委の山中伸介委員長は昨年12月の記者会見で「60年を超える安全規制は未知の領域だが、日本独自のルールをつくる必要がある」と言及。だが法案骨子を正式決定した今年2月の規制委会合では、石渡明委員が「60年以降にどのような規制をするのか具体的になっておらず、安全側への改変とはいえない」として反対意見を表明。重要案件で委員の1人が反対のまま異例の多数決に踏み切った経緯がある。

規制委は検討チームを立ち上げ、60年以降の経年劣化に関する具体的な評価方法の議論に着手した。ただ、既に運転認可を受けた原発に対し、最新の知見に基づく規制基準への適合を義務付ける「バックフィット制度」との兼ね合いや、設計自体が古くなった原発の扱いなど、検討課題が多く議論は難航する。

産経新聞 2023/4/27 17:22
https://www.sankei.com/article/20230427-J4ZBWUPCZFJSBNPO2YARIIB2EI/