<ニュースあなた発>

 「選挙公報が自宅に届かなかった」?。4月の統一地方選で区長選と区議選が実施された東京都渋谷区の有権者から本紙「ニュースあなた発」にこんな声が寄せられた。選挙公報は、立候補した人の政策や経歴が分かる重要な資料だが、これまでも各地で未配布が発生。渋谷区選挙管理委員会の担当者は未配布を認めた上で「今後は確実に届けたい」と再発防止を誓うが…。
 選挙公報 選挙に立候補した人や政党の政見などを記載した文書。公職選挙法では、国政選挙と都道府県知事選は発行と配布が義務付けられている。知事選以外の地方選は各条例に基づく任意。法では投票日2日前までに全世帯に配布しなければならないが、区市町村長・議員選は異なる場合がある。東京都選挙管理委員会によると、都条例で定める都議選の配布期限は「投票日前日」。都内では島しょ部の5村を除く区市町村長・議員選で公報を発行している。

◆あえて無効票投じる
 「区の広報紙には『投票日の2日前までに全世帯に直接配布する』と書いてあったが、投票日を過ぎても届かなかった」
 本紙に連絡をくれた男性(62)は残念がる。投票日の4月23日は所用で区外に出かけなければならず、2日前の21日、期日前投票所に行った。その場で配られていた公報に目を通したものの、区議選には定数34の倍近い62人が立候補していた。「判断できないので投票できない」。区議選については投票用紙にそう記し、あえて無効票を投じた。
 区選管の石亀登次長は「届かなかったのは申し訳ない。投票前に連絡してもらえれば届けられたのだが」と頭を下げる。今回の統一地方選では「公報が届かない」との問い合わせが計6件寄せられ、いずれもすぐに自宅に届けた。
 区選管によると、選挙公報の未配布に関する連絡は各種選挙で毎回数件ある。今回の統一選では大規模な未配布は確認されておらず、詳細な調査を行う予定はないという。
◆身近な選挙ならではの重み
 選挙公報の配布方法には直接配布や郵送のほか、新聞折り込みや自治会への依頼も認められているが、近年はポスティング業者などに委託するケースが主流。男性に届かなかった原因は不明だが、渋谷区では過去にマンションの管理組合から配布を断られた例があった。
 他の自治体でも未配布が後を絶たない。川崎市は昨年7月の参院選で、業者がマンション管理人に拒否されるなどの理由で約3000世帯が未配布になった。神戸市では2021年の市長選などで約1万9000世帯分を業者が「配布済み」と偽っていた問題が発覚した。
 男性は「国政選挙は政見放送や新聞で候補者の主張を知ることができるが、区議選の候補者の人物像は、選挙公報くらいでしか探ることができない。身近な選挙ならではの重みがあり、確実に届くようにしてもらいたい」と注文する。(布施谷航)
◆足立区長選・区議選14日告示 配布漏れ防止に余念なく
 区長選と区議選が14日に告示(21日投開票)される東京都足立区の選挙管理委員会は、配布漏れ防止の準備に余念がない。
 区は今回、選挙公報を約34万部配布する。過去の選挙の未配布事例を蓄積し、リスト化。配布を委託するポスティング業者と情報を共有している。現在、リストには約180戸分が上がっているという。
 昨年7月の参院選では、投票日までに26世帯から未配布の連絡を受けた。原則連絡のあった日のうちに届けるようにしている。区選管の担当者は「路地の奥にある民家を見つけられないこともある。業者には地域性に気をつけてほしいと説明している」と話す。
 ポスティング業者は、営利目的のチラシやビラの配布と間違われないために区が発行する証明書を携帯し、不審に思われた場合には、地域住民やマンションの管理人に提示するようにしている。
 区内の各駅にも16日以降、選挙公報を順次配置する。 (井上真典)

東京新聞 2023年5月14日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/249797