根拠の薄い反論に忖(そん)度(たく)した内向きの法案だ。これまでの議論をないがしろにした修正案であり、法の趣旨を後退させる。


 LGBTなど性的少数者への理解増進法案を巡り、自民党が修正案を事実上了承した。

 立法の基本理念にあった「差別は許されない」の文言は「不当な差別はあってはならない」に変更された。

 「不当な差別」は故安倍晋三氏が答弁に使用した言葉で、「差別を前面に出すと対立を生む」との党内保守派に配慮したという。

 法案の中で数十カ所使われている「性自認」という言葉は「性同一性」に差し替えられた。

 英語ではどちらも「ジェンダー・アイデンティティー」と訳され、本来は同じ意味だ。

 しかし、あえて表現を変えることで性同一性障がいなど「障がい」が付いた場合にのみ対象を狭めようとする意図が透ける。

 学校が理解増進に努めるとした「学校の設置者の努力」の条項をなくし、「事業主等の努力」に含める形にしたのは、「子どもが混乱する」との反発意見に対応したという。

 国による理解増進に関する「調査研究」を「学術研究」「研究」に改め、国や地方自治体の相談体制整備を規定した条文も修正した。

 言い回しを変更する修正案は、法をゆがめ骨抜きにする。国民に誤った認識を与えるような修正をすべきでない。

■    ■

 19日に開幕する先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の首脳声明には、性的少数者の権利を保護し人権状況の改善に取り組む各国の決意が盛り込まれる方針だ。

 参加国で唯一、差別を禁止する国レベルの法的枠組みがない日本にとって声明発表の前に法案を国会へ提出することは、最低条件とも言える。

 しかも日本はG7議長国である。

 しかし党内の法案取りまとめに岸田文雄首相のリーダーシップは見えない。

 法案は2021年に超党派議連が策定を主導し、与野党が協議。野党側の差別禁止法案と、自民の理解増進法案に開きがあり、自民案に「差別は許されない」と書き込む形で合意した。

 ところが、自民党内の了承が得られないという理由で棚上げされてきた経緯がある。

 この間、2年余りも議論を停滞させた上、党の論理を優先して与野党の合意案を後退させることがあってはならない。

■    ■

 当事者団体でつくる「LGBT法連合会」がまとめた困難事例には、就職内定取り消しや、学校でのいじめなど、生活のさまざまな場面で差別を受けたという声が上がっている。

 こうした実態を背景に、共同通信社による今年2月の世論調査では、LGBTなど性的少数者への理解増進法を「必要だ」とした人は64・3%に上り、「必要ではない」24・1%を大幅に上回った。

 差別解消をはっきりとうたった法の制定こそ急ぐべきだ。

沖縄タイムス2023年5月14日 5:01
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1151446