世論の分断を招いた安倍晋三元首相の国葬から、27日で1年を迎えた。政府は国会に事前にはかることなく、開催を決定し、12億円の国費が投じられた。国葬の検証も形式的なものに終わり、岸田文雄首相が世論の反発を受けて「目指す」としたルール化も見送られた。

自民党は決定を歓迎し、茂木敏充幹事長は「国葬は適切」と主張。二階俊博元幹事長も「黙って見送ってあげたい。終わったら、必ず良かったと思うはずだ」と語った。
 国葬には法的根拠がなく、弔意の強制につながるなどとして世論の反発は強まったが、政府は予定通り国葬を開催。終了後も是非を問う議論はやまず、首相は同10月に国会で、「どのような手順を経るべきか一定のルールを設けることを目指す」と表明した。

だが、政府が12月に公表した有識者の意見聴取結果では将来的な方針を示さなかった。与野党による衆院各派協議会も、同月にまとめた検証報告で両論を併記し結論を示さなかった。今年7月には松野博一官房長官が会見で、「国葬儀の検討は時の内閣で判断していく」と述べ、開催の是非や基準はうやむやになった。
◆「国民主権の観点から非常に問題」
 名古屋学院大の飯島滋明教授(憲法学)は、首相の決定を「政権基盤の強化のためというよこしまな考えがあったと思う。国民主権の観点から非常に問題だった」と指摘。検証があいまいな点には「予備費や予算支出の適切性を議論すれば首相の判断がまずかったとなりかねず、幕引きをはかったのだろう」と語る。
 
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