人口が密集する東京23区で、災害時に帰宅困難者に開放される民間の一時滞在施設の公表に差が出ている。新宿、墨田、江東の3区は名称や所在地を一切明らかにしておらず、23区内に少なくとも930カ所ある施設の約3割がどこにあるか分からないのが現状だ。

少なくとも930カ所の一時滞在施設
 一時滞在施設は、災害が発生して交通網がまひした際に職場などから自宅に帰れなくなった帰宅困難者が一時的に過ごせる場所として、都や各区が公共施設のほか、民間のホテルや百貨店などを指定している。


 都や各区への取材によると、23区内には少なくとも930カ所あり、このうち都立160カ所については都が名称と所在地をホームページで公表している。だが、各区が協定を結ぶ民間などの残り770カ所については区ごとに判断が分かれ、253カ所はどこにあるのか明らかにされていない。

 23区のうち新宿区は確保している施設数を含めて公表していない。墨田、江東両区は施設数のみ明らかにし、施設の名称や所在地は公表していない。江戸川区は所有者の了解が得られた民間の9カ所を公表しているが、民間全体の確保数は伏せている。一方、「所有者の了解が得られない」などの理由から一部の施設について非公表としているのは千代田区など11区、全施設を公表しているのは文京区など9区だった。


開設準備前に人殺到を懸念する業者も
 施設を公表している理由については、災害時には電気やインターネットが使えなくなる可能性などを考慮していた。「非公表だと災害時にどこの施設が空いているか分からない」(中央区)、「施設の情報は平時からみなさんに伝えておいた方が良い」(中野区)などと説明した。

 一方、公表しない理由については「昼間の人口が多い場所では開設の準備が整わないうちに人が押し寄せることを懸念する事業者がいる」(一部非公表の港区)、「公表してほしいが、民間の施設に強制はできない」(全部非公表の新宿区)などの意見が目立った。


「発災時はアプリなど利用を」
 災害時にどこに一時滞在施設があるかを周知する方法については、各区とも区のホームページやネット交流サービス(SNS)、防災アプリなどを使うと説明した。ネットが使えない場合は、防災無線を使ったり、帰宅困難者が集まる可能性がある駅周辺の事業者と協力して誘導したりする予定だという。

 都は2022年5月、首都直下地震の被害想定を改定し、最大約453万人の帰宅困難者が発生するとの想定を公表した。このうち職場などに身を寄せられない買い物客らを「行き場のない帰宅困難者」として約66万人に上ると推計。23年1月時点で、各区が非公表としている施設を含め都内全域で約45万人分(1217カ所)の一時滞在施設を確保したとしている。


 東京大の広井悠教授(都市防災)は「一時滞在施設の対象は、主に買い物客などなので、よく行く場所があれば、周辺で公開されている施設を確認しておく必要がある。平時は非公表の施設も、発災時には公表されるので、日ごろから行政の防災情報などを得られるアプリを入手したり、SNSアカウントをフォローしたりしておくことも有効だ」と話す。【一宮俊介】

毎日新聞 2023/9/30 14:45(最終更新 9/30 14:45) 1318文字
https://mainichi.jp/articles/20230930/k00/00m/040/068000c