目の前の快楽を求めれば求めるほど、将来への希望はなくなった。市販薬を過剰摂取する危険な「オーバードーズ」(OD)から抜け出せない若者たちがいる。高揚感が得られ、「つらい記憶を思い出したり、面倒なことを考えたりしなくて済んだ」。東京都新宿区歌舞伎町でホストをしていた男性(19)は落ち込んだ時に過剰摂取を繰り返し、違法薬物にも手を染めた。

ホスト辞め「トー横」に

男性がODを初めて知ったのは、2022年秋だった。歌舞伎町の複合施設「新宿東宝ビル」周辺に集まり、「トー横キッズ」などと呼ばれる若者と付き合い始めたばかりのころだ。「これ、すっごく楽しいよ」。路上に座り込んでいた少女が笑みを浮かべ、ろれつの回らない口調で錠剤を差し出してきた。

 都内のベッドタウン出身で、いじめに遭って中学校時代は不登校だった。高校を卒業して就職したセメント工場の仕事は長続きしなかった。そんな時、知人に誘われたのが、歌舞伎町のホストクラブの仕事だった。

 軽い気持ちで始めてすぐ、「内気な性格の自分は初対面の女性と話すのは向いていない」と思い知らされた。ホストを辞め、「トー横」を居場所にするようになった。「家庭や学校に居場所がない」と語る同世代を「仲間」と感じた。

せき止め薬で「パキる」

トー横キッズらの間では、市販のせき止め薬や睡眠薬などを大量に飲むODが「パキる」と呼ばれ、はやっていた。笑い転げたり、大声を上げたりする仲間を見て、興味がわき、20錠ほどのせき止め薬を譲ってもらい一気に飲み干した。

 しばらくすると視界が狭くなり、周囲がグラグラと揺れ始めた。最初は気持ち悪かったが、ふわふわとした高揚感を得るようになり抜け出せなくなった。人目に付かない場所で、たまに手を出す程度だったが、次第に頻度は週1回に増え、電車内など場所も選ばなくなった。薬局からの盗品と知りながら、知人から10錠を200円で買うこともあったという。

 昏睡(こんすい)状態で救急搬送された知人や、錯乱して自殺した人もいた。それでも、「ふっと襲ってくる暗い気持ちに耐えきれず、やめられなかった」。トー横に行き着いた後も、中学時代の光景が目の前によみがえり、周囲にいる人たちに無視されているんじゃないかと感じることがある。ODをするのはそういう時だ。

(中略)

「ここは犯罪ばかり。心身を壊したり、逮捕されたりする仲間を見ていると苦しい。この街を出たいと思うときもある。でもさ、みんな一人になるのが怖くて、抜け出せない。将来の夢なんて何もないっすよ」

(中略)

「つらい気持ちから逃れるため、ODに走る若者もいる。危険性を訴えるだけではなく、苦しさや孤立感に耳を傾けることが抑止につながる」

(中略)

歌舞伎町で防犯活動に取り組むボランティア団体「オウリーズ」の槙野悠人代表は「未成年を利用し、違法薬物の売買や管理売春などの犯罪に誘い込む大人もいる。危険から守るためには、行政による『居場所』作りが必要だ」と指摘する。

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