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の続きと日米地位協定も無理な理由


官邸のなかには一時、この北方領土と米軍基地の問題について、アメリカ側と改めて交渉する道を検討した人たちもいたようですが、やはり実現せず、結局一一月上旬、モスクワを訪れた元外務次官の谷内正太郎国家安全保障局長から、

「返還された島に米軍基地を置かないという約束はできない」

という基本方針が、ロシア側に伝えられることになったのです。

その報告を聞いたプーチン大統領は、一一月一九日、ペルー・リマでの日ロ首脳会談の席上で、安倍首相に対し、

「君の側近が『島に米軍基地が置かれる可能性はある』と言ったそうだが、それでは交渉は終わる」

と述べたことがわかっています(「朝日新聞」二〇一六年一二月二六日)。

ほとんどの日本人は知らなかったわけですが、この時点ですでに、一ヵ月後の日本での領土返還交渉がゼロ回答に終わることは、完全に確定していたのです。
2018年、当時の安倍首相にこう伝えた。あなたは憲法改正をしようとしているが、自民党の幹部たちに取材をしていると、どうも皆、憲法改正は無理だと考えている。憲法改正前に、まずは日米地位協定を改定すべきだ。トランプ大統領(当時)と仲の良いあなたなら不可能ではないはずだと。

 すると安倍さんは、日米地位協定を改定するとはっきり言った。ところが2020年の5月に、外務省の幹部から連絡があり会ったところ、実はアメリカの国防総省の反対によって、日米地位協定の改定は無理だと言う。なぜイタリアやドイツは改定ができたのに、日本はできないのかと聞くと、イタリアやドイツはNATO(北大西洋条約機構)に加盟していると。NATOというのは、安全保障面でアメリカと完全に相互性がある。それに対し日本は、限定的な集団的自衛権のため、難しいと言う。

――イタリアやドイツと違って、安全保障をアメリカに委ねている日本は、交渉するには立場が弱いと。