https://news.yahoo.co.jp/articles/7c3e6852cb88d9194d71d913412381fe077eb036
 「中国による禁輸」の功罪が見えてきた。
昨年8月から始まった福島第一原子力発電所にたまる処理水の海洋放出で、中国は日本の水産物の輸入を停止。
あれから約8カ月がたったが、中国市場に依存してきた日本の水産物の一部は、マレーシアをはじめとする東南アジアで活路を見いだしている。
これも結果的には「サプライチェーンの脱中国」を促すことになったようだ。(ジャーナリスト 姫田小夏)

● マレーシアで「日本食」のポテンシャルが高まる
23年8月24日に東京電力が開始した「処理水の海洋放出」で、中国は即座に日本産の水産物に対する禁輸措置を講じた。
そのため、日本の農林水産物・食品の輸出額は減少し、輸出先の転換や多角化は焦眉の課題となっている。

一方、日本産の水産物に「禁輸措置」を講じなかった国もある。マレーシアもその一つだ。
海洋放出が行われた翌日、モハマド・サブ農業食糧安全相は「日本からの水産物の輸入禁止を実施するかは決定していない」と伝えた。
昨年10月初旬、宮下一郎農林水産相(当時)はマレーシアを訪問し、日本産水産物の安全性をアピールした。
複数の現地メディアがこれを取り上げ、マレーシアのサバ州沖で実施しているモニタリングでは、この時点で放射性物質の検出はなかったことを報じた。

もとより「海洋放出」以前から東南アジアでは、日本食の消費地として関心が高まっていたが、
水産物見本市への積極的な参加や新たなホタテの加工基地の開設など、さらなる日本の水産物の市場開拓が進んでいる。

同時に、日本食レストランにも期待が集まっている。
日本貿易振興機構(JETRO)によれば、人口3350万人のマレーシアにおける日本食レストランの数は、22年5月時点で約1700店舗、
クアラルンプール首都圏には約900店舗あるという。
マレーシアは、1人当たりGDPが1万1109ドル(21年)と日本の4分の1程度。それだけにポテンシャルがあり、日本食レストランの発展も見込まれている。

時々刻々と変化する日本食を巡るマーケットだが、クアラルンプールでは、今、“中国の禁輸”とともにある変化が起こっている。

● 「OMAKASE」を頼むことが一つのステータスに
「上等の食材がマレーシアに入るようになりましたよ」――クアラルンプールの高級日本料理店で包丁を握る田中敏行さんはこう語る。
マレーシアに8年、日本食を取り巻く環境の変化を、コロナ禍以前からつぶさに見つめてきた。

今マレーシアで起こっているのは、中国が日本の水産物を禁輸することで進む新たなサプライチェーンの構築だ。
水産物のみならず、加工食品や調味料など、それに付随する日本の食の産業の南下が始まり、現地では、さまざまなイベントやプロモーション活動が行われている。
振り返れば、20年のコロナ禍で、マレーシアも人々の行動が大きく制限された。
飲食業界も苦戦が続いたが、一方で別の動きも見られた。
地元の富裕層にとって、習慣化していた海外渡航ができなくなった分、その予算を「食」に投じるようになったのである。

「コロナを前後して『おまかせコース』を提供する高級店が増えました」と田中さんは話す。
「おまかせ」は、すし屋用語の一つだが、東アジアや東南アジアでは、高級志向の高まりを受け、「OMAKASE」を頼むことが一つのステータスになった。
クアラルンプールの高級日本食を扱う店でも、キャビアやウニ、金粉でトッピングしたぜいたくな日本食が振る舞われるようになった。
コロナ禍がもたらした“新市場”は予期せぬ出来事でもあったが、さらに「食のサプライチェーンの南下」も予期せぬ展開だった。
中国による日本産水産物の禁輸が、回り回ってマレーシアの高級日本食市場に“福音”をもたらしているという側面もあるのだ。

ちなみに、マレーシアに強いシフトがあることについて、隣国タイの高級すし割烹の店主は
「首都バンコクではすでに日本料理店が飽和となっているためではないか」とコメントしている。

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