連載<続・砂上の安全網>②
 桐生市の生活保護制度の運用をめぐる問題は、第三者委員会が始動し、4月3日には利用者2人が市を相手取って国家賠償請求訴訟を起こして実態解明に向けた段階に入った。新たな証言やデータから、同市の生活保護行政が再生できるのかを問う。

●情報公開請求で判明した「特異点」
 桐生市をめぐる一連の問題では、社会福祉専門家や法曹、支援団体関係者らによる全国調査団が結成された。活動の一つに、情報公開請求を通じて入手したさまざまな資料の分析があった。

調査団の一員として分析を担当した桜井啓太・立命館大学准教授(社会福祉論)は3月、ある特異点に気付いた。生活保護利用者で働く能力がある人に自立を促す「就労支援相談員」に、警察官OBが配置されていた。

生活保護担当部署への配置は、暴力団員らによる不当要求に備えるとの理由から全国の自治体で一般的に行われ、人件費に国庫負担金が支出される。しかし、桜井准教授は「就労支援業務を担うのは聞いたことがなく、驚いた」という。

桐生市福祉課によると、警察官OB採用は2012年度に開始し、各年度で最多4人が勤務。16年度からうち1人は就労支援相談員で、市職員OBの相談員が退職したため、住民相談業務の経験に期待して群馬県警に退職者の紹介を依頼した。人口約10万人の同市の福祉課のケースワーカーは7人。例えば36万人余の高崎市は、ケースワーカー35人に対してOB4人だ。

また、調査団が県への情報公開請求で入手した23年度の桐生市への監査資料によると、市は生活保護の申請について、相談と受け付けを福祉課職員と警察官OBの2人で対応すると明記し、家庭訪問をした事例も確認できた。

●「相談者に心理的な圧迫を加えていた可能性」

桜井准教授は「ケースワーカー5、6人程度の福祉事務所で4人の警察官OBは多い。しかも、初回の相談に同席するのは聞いたことがない」と語る。これが生活保護の申請を拒む「水際作戦」の手段となっていたのでは、との疑念を持った。「元警察官の対応が、相談者にとって威圧的で心理的な圧迫を加えていた可能性はある」

続きは東京新聞 2024年5月1日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/324278