エルドアン・トランプ会談でもPYDに対する認識の差は埋まらず
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/pyd-1.php

<トルコのエルドアン大統領はトランプ大統領と会談し、アメリカによるクルド民主統一党(PYD)支援の中止を要請したが、オバマ時代から続いているPYD支援を覆すことはできなかった>

2013年以降、対米不信が強まる
2017年5月16日、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はワシントンでドナルド・トランプ米大統領と初の首脳会談に臨んだ。

トルコとアメリカの関係はオバマ政権の第二期で次第に悪化していった。2013年9月、シリアにおいてアサド政権が化学兵器を使用した疑惑が報じられた際、トルコはアメリカにシリアへの介入を要請し、
当初はオバマ政権も積極的に応じる姿勢を示すも結局ロシアの仲介でアメリカはシリアへ介入しなかった。この一件からトルコ政府のオバマ政権への不信感が募り始め、2014年秋以降、シリアで
クルド民主統一党(PYD)への支援をアメリカが始めたこと、2016年7月16日のトルコでのクーデタ未遂事件の首謀者と言われているフェトフッラー・ギュレン師がアメリカに滞在していることで、その不信感は高まった。

また、大統領の有力候補だったヒラリー・クリントン氏にはギュレン師に関連する組織から多くの献金があったと報道されており、ヒラリー氏は大統領選に際してシリアでPYDを積極的に支援する姿勢を示すなど、
もしヒラリー氏が大統領に選出されると、トルコとアメリカの関係はさらに悪化する様相を見せた。

その意味では、トランプ氏の大統領選の勝利は、トルコにとって対米関係を改善させるための千載一遇のチャンスとなった。非常に短い期間であったが、トランプ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を
務めたマイケル・フリンがトルコを重視する姿勢を示し、ヒラリー氏に比べ、トランプ氏はPYDへの支援の停止やギュレン師のトルコへの引き渡しにも応じる可能性が高いとトルコ政府は見ていた。

トランプ政権のPYD支援

しかし、トルコ政府の期待とは裏腹に、トランプ政権はシリア内戦を解決するためにPYDを支援していくこと、つまりオバマ政権の政策を踏襲している。3月8日に国務省のマーク・トナー報道官は、トランプ政権が
PYDおよびその軍事組織である人民防衛隊(YPG)を支援していることに言及し、PYDとYPGはアメリカがテロ組織に指定しているクルディスタン労働者党(PKK)とは異なる組織であり、PKK対策ではトルコと協力して
いくことに言及した。

また、4月6日のコラムでも触れた3月7日に行われたアンタルヤでのアメリカ、ロシア、トルコの統合参謀総長間の会談で、シリアのラッカにおける「イスラーム国(IS)」の掃討作戦は、PYD中心に展開されることが
決定した。このように、トランプ政権は徐々にPYD支援の姿勢を強めていった。

トルコ政府はトランプ政権のPYD支援に歯止めをかけるべく、PYDとPKKは同一組織、つまりPYDはテロ組織であると口酸っぱく主張してきた。また、4月25日にはトルコ軍がイラクのシンジャルの山岳部のPKK拠点と
シリアの北東部のカラチューク山のPYD拠点を越境攻撃し、カラチュークではYPG兵士20名を殺害した。