しかし、この攻撃はシリアにおけるアメリカ軍とPYD、YPGの連帯の強さをむしろ白日の下に晒すことになった。それはトルコの空爆で亡くなったYPG兵士の葬儀にアメリカ兵が参列している写真が流出したのである。
また、トルコ軍の空爆後、アメリカ軍の士官がPKKの重要人物の一人であるアブディ・フェルハド・シャヒンと接触したと報じられた。そして、5月9日にトランプ大統領はPYDへの武器提供を許可するなど、エルドアンの
訪米を前にトランプ政権はPYD支援の姿勢を明確にさせた。

エルドアン大統領の訪米でも潮目は変わらず

5月16日の会談で、エルドアン大統領はトランプ大統領とPYDへの支援の中止、ラッカのIS掃討作戦へのトルコの参加、5月3日と4日に行われたトルコ、ロシア、イランの3ヵ国によるシリア停戦に向けた第4回アスタナ会合で
設置が決まった緊張緩和地域、ギュレン師の引き渡し、両国の二国間関係などについて話し合った。この首脳会談でもエルドアンはトランプにPYDへの支援をやめるよう釘を刺した。一方のトランプはトルコのPKKとISへの
対テロ作戦を支援していくことを約束した。

結果的にエルドアン大統領の訪米はトルコ政府が目標としていたPYD中心でのIS掃討作戦の展開、そのためのアメリカのPYD支援を覆すことはできなかった。ただし、トランプ政権も盲目的にPYDへの支援を行っている
わけではなく、ある程度トルコにも配慮を見せている。例えば、アメリカ政府高官は、IS掃討後、PYDがラッカを占領する予定はないこと、PYDおよびYPGはトルコの脅威にはならず、もしなるようなことがあればトルコ政府が
それに対抗できること、PKK掃討作戦に協力することなどを言及している。

トルコとの同盟関係は重要視しているが、IS掃討作戦に関してはPYD中心で展開するため、作戦が終わるまではトルコ政府に無用な揉め事は起こしてほしくないというのがトランプ政権の姿勢だろう。

今後の展望

5月9日にPYDへの武器提供が許可されてから、5月15日と20日にアメリカ軍はPYDに対して実際に武器や物資の提供を実施した。トルコ政府はエルドアンの訪米後もPYDとPKKは同一組織であるという主張を続けているが、
5月22日に実施された越境攻撃ではPKKの本拠地と見られているイラクのカンディール山を攻撃したものの、PYDの支配地域への空爆は行われなかった。トルコ政府もアメリカとPYDの結びつきは強いことを認識し、今回の攻撃ではPYDを攻撃対象から外したと考えられる。

トルコ政府もIS掃討作戦はPYD中心で行われることを受け入れざるをえない状況となっている。今後の焦点は、ラッカでのIS掃討作戦がいつ始まるのか、ラッカでの攻撃後、アメリカはシリアに留まるのか、アメリカ、トルコ、PYDの関係はISの消滅でどのように変わっていくのか、
である。いずれにせよ、トルコ政府は機会があればなるべく早い段階でアメリカのPYDへの支援を断ちたいというのが本音である。