幻の幽霊画発見 鏑木清方作 谷中「全生庵」で公開
東京新聞:2017年8月16日 夕刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017081602000249.html

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鏑木清方が描いた幽霊画=東京・谷中の全生庵で

 文化勲章受章者の日本画家、鏑木清方(かぶらききよかた)(一八七八〜一九七二年)が描き、一九二三年の関東大震災で焼失したとみられていた幻の幽霊画が、ほぼ一世紀ぶりに確認された。
幽霊画のコレクションで知られる東京・谷中の寺院「全生庵(ぜんしょうあん)」で三十一日まで公開されている。

 絹本(けんぽん)で縦九十五センチ、横三十四センチ。
表情が確認できないほど深く頭を下げた着物姿の女性が、ふた付きの茶わんを台に乗せ献上する様子が描かれている。

 画廊「加島美術」(東京都中央区)が六月、関東在住の浮世絵コレクターから購入した。
制作年は不明だが、一九〇六年、幕末から明治にかけて活躍した落語家三遊亭円朝(一八三九〜一九〇〇年)の七回忌で絵はがきの図柄に使われた記録がある。
落款や絵はがきの図録などと照合し本物と判断した。

 怪談噺(ばなし)を得意とした円朝は、多数の幽霊画を収集。
円朝の没後、遺品管理を託された支援者の藤浦家が引き継いだ。
藤浦家は関東大震災前に、円朝の菩提(ぼだい)寺の全生庵に幽霊画約五十幅を寄贈したが、その中に含まれていなかったことから、焼失したと考えられていた。

 加島美術の依頼で作品を分析した、日本美術史研究者で長野県の浮世絵美術館「北斎館」の安村敏信館長(64)は
「怪談『皿屋敷』に登場するお菊を、美人画で知られる鏑木が若く美しい女性に見せかけて描いた。傑作中の傑作が今になって見つかったのは、まさに幽霊のようだ」と話す。

 タイトルは不明だが、安村さんが公開に合わせて「茶を献ずるお菊さん」と名付けた。
全生庵が毎年、円朝の命日の八月十一日に合わせて開いている幽霊画展で公開している。午前十時〜午後五時。入館料五百円。 

 <鏑木清方> 東京・神田生まれ。13歳で挿絵画家の水野年方(としかた)に師事。
挿絵や美人画、風俗画のほか、樋口一葉や泉鏡花など文学を題材にした作品も残した。
肖像画「三遊亭円朝像」は国の重要文化財に指定。帝展審査員や帝国美術院会員などを歴任。1954年に文化勲章を受章。