<避難解除地域>家守る苦肉の「柵」 野生動物、駆除に限界
8/16(水) 21:07配信 毎日新聞

帰還住民が暮らす民家をイノシシの侵入から防ごうと、約50メートル四方の敷地を丸ごと
フェンスで囲う自治体職員たち=福島県浪江町で、尾崎修二撮影
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170816-00000077-mai-soci.view-000

 東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示が解除された地域で、街中にすみ着いた野生動物から
帰還者の生活を守ろうと、人家を丸ごと柵で囲う作戦が試験的に始まった。避難指示期間中に
市街地で生まれ育った動物の個体数が増え続けた一方で、解除後の住民の帰還率が2割程度と
低いことが背景にあるという。駆除にも限界があり、当面、街を動物とすみ分ける試行錯誤が続きそうだ。

 「『人間が檻(おり)に入る』なんて冗談みたいだけど、イノシシの侵入が防げるならありがたい」。
避難先から夫と福島県浪江町の自宅に戻った40代女性が、50メートル四方の敷地をぐるりと
囲った高さ1.2メートルの鉄製フェンスを見ながら言った。

 フェンスは、県などが原発事故で避難を強いられた周辺12市町村を対象に試験的な設置を
始めたもので、女性は「イノシシは毎夜のように来る。群れで現れたり納屋を開けようとしたり、
怖い思いを毎日してきた」と歓迎した。町も効果を検証した上で、宅地へのフェンス設置費用を
補助する施策を検討する。

 福島県内の避難指示は今春までに、大熊町や双葉町などの帰還困難区域を除くほとんどの地域で
解除された。だが、避難の長期化で、イノシシが市街地の竹やぶや川沿いの草むらを寝床にしたり、
ハクビシンやアライグマは民家の天井裏をすみかにしたりしてしまった。

 帰還した人の多くが「趣味の家庭菜園を荒らされないか」「イノシシに襲われないか」と不安を
感じている。こうした状況は、帰還率が上がらない一因にもなっているという。

 除染の一環でやぶを刈ったり、荒廃した家屋の解体が進んだりして動物がすみづらい環境に
なってきてはいる。だが、市街地で生まれ、山の生活を知らない個体への代替わりが進んでおり、
昼間に街に出現する頻度は減っても、山に戻すのは容易ではないという。

 富岡町では、町に委託された猟友会員が町内約30カ所にわなを仕掛け、捕獲を続けている。
だが、12人の会員は大半が60〜70代と高齢で、現在も町外に避難しており、活動には限界がある。

 福島の野生動物を調べている東京農工大の奥田圭助教(野生動物管理学)は、「戻った住民が
使う場所と動物が暮らす場所を把握し、効率よく、長く続けられる対策を模索するしかない」と
話す。【尾崎修二】

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