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[東京 17日] - 日本企業の収益拡大が続いている。大手証券会社や新聞の集計によると、国内上場企業の2017年4―6月期決算の純利益は、9兆円程度と過去最高を更新。増益企業は全体の7割近くに達し、業種別でも全32業種のうち8割強に相当する26業種が増益となった。

企業収益の拡大は、景気の押し上げにつながり始めている。同期の日本の実質国内総生産(GDP)は前期比1.0%増(年率4.0%増)と、6四半期連続のプラス成長となったが、設備投資は同2.4%増と成長率を0.4%増押し上げ。個人消費も同0.9%増と、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が発生した2014年1―3月期以来の高い伸びを記録した。この背景には雇用者報酬が同0.7%増と大きく拡大した点がある。

ただ、設備投資や人件費の増加率を考慮すると、日本企業が増加した収益全てを設備投資や人件費に回したわけではなく、内部留保(純資産)を蓄積する動きは続いていると考えられる。法人企業統計によると、日本企業(除く金融保険)の自己資本比率は、2017年3月末で42.4%と、1954年6月末の統計開始以来の最高を更新したが、6月末にはさらに上昇したと推察される。

7月に入っても日本の市中銀行の預金は前年比4.5%のペースで増加したことから、増加した純資産の多くは現預金として蓄積され、3月末に189兆円に達した日本企業が保有する現預金はさらに拡大したと見込まれる。

<日銀と年金基金が「富」流出の歯止め役に>

日本企業の収益と純資産が拡大する中、日本の株価はさえない。日経平均株価は6月に2万円の大台に到達したが、その後は2万円ちょうどを挟んで方向感に欠ける動き。8月9日からは一転して売り優勢の展開となり、14日には一時1万9500円割れと、5月18日以来の安値を更新した。その後、持ち直したものの、原稿執筆時点でも1万9700円台と2万円の大台を回復できていない。

背景には、北朝鮮情勢の緊張の高まりなどが考えられるが、それにしても日本株の評価は低い。日米独英4カ国の代表的な株価指数の株価純資産倍率(PBR、純資産に対する時価総額の割合)をみると、S&P総合500種は3.13倍、独DAXは1.77倍、英FTSE100は1.87倍であるのに対し、TOPIX(東証株価指数)は1.29倍にすぎない。

4カ国の株式市場に上場する企業のうち、PBRが1倍を割り込んでいる(時価総額が純資産を下回る)企業の割合は、米国が10%、ドイツが11%、英国が14%であるのに対し日本では38%と際立って高い。0.7倍割れの割合は、米独英がおおむね7%前後であるのに対し、日本では21%だ。日本の上場企業の4割は、時価総額が純資産(解散価値)を下回っており、5社に1社は解散価値の3割引きの状態である。

興味深いのは、割安に放置された日本株に対する日本の個人投資家と外国人投資家の動きの違いだ。東京証券取引所がまとめた同期間の2市場投資部門別売買状況によると、日本の個人投資家は、今年4―6月期に2.0兆円の日本株(現物)を売り越しているのに対し、外国人投資家は1.7兆円ほど買い越している。これは、日本企業が純資産を積み上げるなか、日本の個人投資家は日本企業の所有権(オーナーシップ)を手放し、外国人投資家が所有権を増やしていることに他ならず、増加する日本企業の純資産(富)が、国外に流出する事態につながりかねない。

日本企業が蓄える富(ある種の国富)が国外に流出する事態に歯止めをかけているのが、日銀と年金基金である。日銀は金融政策の一環として、年6兆円のペースで株価指数連動型上場投資信託(ETF)を買い入れ続けている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2014年10月に積立金全体に占める日本株の保有比率目標を25%に引き上げ、日本株への投資を積極的に進めている。この結果、外国人投資家による日本の上場企業の保有比率は30%程度にとどまっており、国全体でみると、日本企業の所有権の移転による国富の国外流出は避けられている。

日本では、株価上昇による経済格差の拡大や、日銀や年金基金による株式の大量保有に対し批判的な見方もある。しかし、個人投資家(家計)が日本株保有というリスクを減らす以上、日本株上昇の恩恵が家計に行き渡りにくくなるのは自然のことだ。国富の国外流出阻止の観点からみれば、日銀や年金基金による日本株の保有拡大には(それなりの)正当性が存在する。こうした批判が説得力を高めるには、家計が日本株保有に対し前向きな姿勢に転ずることが必要と思われる。

2017年 8月 17日 11:37 AM JST