コンビニエンスストアに飲料の顧客を奪われていた自動販売機の逆襲が始まる。撤退企業も出ていたが、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」が潮目を変えた。街の一等地にも過疎地にもある自販機はIoTの拠点として適しており、ネットに常に接続できることで最新情報をもとにモノやサービスを効率的に提供してコンビニに対抗する。
「飲料を購入できるだけでない、プラスの価値を提供する」。17日、ダイドードリンコの笠井勝司取締役は新サービス発表会でこう強調した。
リクルートライフスタイルのクーポンサイト「ホットペッパー」と組み、スマートフォン(スマホ)アプリを通じ周辺の飲食店などの情報を配信するサービスを9月に始める。ダイドーの自販機で商品を買うと、購入者のスマホと通信し、半径1キロメートル以内の店舗情報やクーポンがアプリに表示される仕組みだ。
開発担当の西佑介氏は「消費者が知らない情報に接する機会にする」と語る。自販機は単なるモノ売りでなく、IoT連携でデジタル販促にも活用できる媒体になり、サービス収入も入るようになる。
IoT自販機は広がりを見せる。キリンビバレッジは対話アプリ「LINE」と組み、飲料を買うとポイントを付与するサービスを4月に始めた。タクシー運転手に近くの客待ち情報を提供する実験も進む。全国に250万台ある自販機は、電源供給があり通信機能を付けやすいためIoT拠点に適している。
ただ足元の市場環境は厳しい。
「缶コーヒーはこの2年ほど買ってない」。盆休み明けの17日午後、東京・大手町のコンビニから出てきた40代男性はこう話す。手には買ったばかりのいれたてコーヒー。「ほぼ同じ価格で手軽においしいコーヒーを飲める」と理由を語る。
自販機の主力である缶コーヒー客が、いれたてコーヒーに注力したコンビニに流れた。14年の消費増税でコンビニやスーパーとの価格差も広がった。飲料総研(東京・新宿)によると、飲料販売に占める自販機比率は02年の38%から、16年には29%に低下した。
再編も進む。15年にはネスレ日本が自販機向け缶コーヒー製造から、日本たばこ産業は飲料・自販機事業からそれぞれ撤退した。
客を奪われたコンビニやスーパーに対し、自販機が勝てるのは人手が極力かからない点だ。深刻な人手不足で営業時間を短縮する店も出るなか、IoT自販機は救世主となる可能性がある。
IoTはネットに常時接続しており、最新の売れ筋だけを自販機で売ることもできる。コカ・コーラボトラーズジャパンは小売店の営業時間短縮をにらみ、19年までに800億円を投じて自販機を次世代型に刷新する。
商品力そのものの向上は不可欠だが、人手不足を解消する事業モデルを構築できれば自販機の勝ち残りの道が見えてくる。(大淵将一)
日本経済新聞 2017/8/17 22:04
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ17HMI_X10C17A8TI1000/