瀬戸内海に、国内外で活躍する一流の音楽家が毎月、演奏会を開く島がある。人口約1500人の広島県・下蒲刈島だ。昨年はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーも出演。島ならではのもてなしは音楽家を魅了し、公演予定は2年先まで埋まっている。
7月15日の夕方、会場の蘭島閣美術館にソプラノ歌手沢畑恵美さんの歌声が響いていた。館内は約150人の観客でいっぱいだ。レベルの高さは評判を呼び東京や大阪からも観客がやって来る。
演奏会が始まったのは平成13年。「島の子どもに本物を見せたい」と当時の下蒲刈町(15年に呉市と合併)の町長が発案した。町長の高校の後輩でNHK交響楽団副理事だった原武さんに協力を求め、音楽家を紹介してもらった。
すると島民たちが「遠くからせっかく来てくれたのだから」と、誰からともなく楽屋に畑で採れたイチゴやサクランボを届けるように。釣り好きには船を出し、冬には特産のミカン狩りに誘う人もいたという。
「みなさん『また来たい』と言ってくれます」と主催する蘭島文化振興財団の柴村隆広事務局長は語る。こうしたもてなしが評判を呼び、次第にリピーターが増えていった。最多の出演者は14回で、中には次回の予定を入れて帰る人もいる。
下蒲刈島は江戸時代、寄港した朝鮮通信使が日本一の歓待と称賛した島。同財団の渡辺理一郎理事長は「ここにはもてなしの伝統があるんです」と教えてくれた。
毎月第3土曜日に開く演奏会は今月19日で200回を迎える。柴村さんは今では子どもより、大人の観客の方が多いと苦笑するが「できる限り続ける。この島からプロの音楽家が出たらいいな」と語った。
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演奏会の開演前、蘭島閣美術館の前に並ぶ入場待ちの列=7月15日、広島県・下蒲刈島
産経WEST 2017.8.18 20:32
http://www.sankei.com/smp/west/news/170818/wst1708180090-s1.html