幻覚や幻聴が特徴的な精神疾患・統合失調症を患った人を医療機関につなげている珍しい探偵会社が広島市にある。その会社「総合探偵社フォーチュン広島」の社長、重川亮さん(43)によると、異色の活動を始めたきっかけは元々、依頼者の中に統合失調症を患った人が多かったことだという。その活動内容や活動を通じて気づいた問題などを聞いた。

●統合失調症の人が探偵会社に相談にくる理由

――探偵会社というと、一般的には浮気調査が主な仕事というイメージなので、依頼者の中に統合失調症を患った人が多いということを意外に感じる人も少なくないと思います。

統合失調症の人は自分が病気だとわからず、病院ではなく警察や弁護士、防犯会社、探偵会社などに相談に行くことが多いのです。主な相談内容には、「盗聴されている」「電磁波攻撃を受けている」「集団ストーカーの被害に遭っている」などがあります。

変わったところでは、額にテープのようなものを張り、「これがないと思考を盗聴されるのです」と言っていた人や、「服のサイズをすべて変えられました」「冷蔵庫のチーズが毎日1つずつ無くなるのです」と訴えてきた人がいました。僕も最初はそれが病気とわかりませんでしたが、メンタルクリニックの先生に「それは統合失調症です」と教えてもらったのです。

――そこで、統合失調症の人たちを医療機関につなげる活動を始めたわけですか。

いえ、以前はそういう人たちの調査依頼は体よく断っていたのです。というのも、「盗聴されている」という人の家を実際に調べ、「何も出てきませんでした」と結果を伝えても、「いや、盗聴器は絶対ある」と言い張り、調査料金を払ってくれなかったりするのです。僕らを家に呼んでおきながら、「お前も手下だろ」と包丁を振り回す人もいましたからね。

――では、何が活動を始める転機になったのでしょうか。

当社が調査を断った人がその後、別の探偵会社に相談に行き、何十万円、何百万円という法外な料金を支払ったという話がちょくちょく耳に入ってきたことです。統合失調症の人の中にもお金がある人はいます。そういう人は探偵会社から「盗聴器探しなら50万円かかります」と言われても、「盗聴の苦しみから逃れられるなら安い」と思ってしまうのです。

そういう探偵会社は実際に調査をして盗聴器が出てこなくても、「盗聴器ではなく、レーザーで盗聴されていたようですね」などと色々な言い訳をしてお金を支払わせます。僕はそういう話を聞くたびに腹が立ち、「そういう会社に大金を払わせるなら、統合失調症の人を医療機関につなげたい」と思うようになったのです。

●統合失調症の人を病院に連れて行くのは大変

――「医療機関につなげる」というのは、統合失調症の疑いがある依頼者を病院に連れて行くということですか。

単純に言えばそういうことですが、統合失調症の人を病院に連れて行くのはすごく大変です。本人は病気の自覚がないので、本人に直接、「統合失調症かもしれないので、病院に行きましょう」などと言ってはいけないからです。そんなことを言うと、怒って帰ってしまう人もいます。

そこで、家族がいる人なら、まずは家族に連絡して、「おたくの息子さんが当社に相談にこられたのですが、精神疾患かもしれません。病院に連れて行かれてはどうでしょうか」などと持ち掛けます。一方、独身や一人暮らしの人だと、僕が自らクリニックや病院まで連れて行くしかありません。その場合、言い方がとても難しいですね。

――どのような言い方をするのですか。

クリニックの先生から「肯定してはダメ。共感するように」と教わり、そのような言い方をしています。たとえば、集団ストーカーの被害を受けているという人には、「僕には、あなたが本当にそういう被害を受けているかはわからないですが、そんな状態だったら睡眠もとれずに大変だったんじゃないですか」などと言います。

すると、心を開いてくれる人がいるのです。今まで周囲の誰にも信じてもらえず、妄想だと言われているからです。心を開いてもらえたら、「僕も以前、眠れないことがありましたが、クリニックに行ったら頭が冴えてきましたよ。よかったら、一緒に行ってみましょうか」などと誘うと、「じゃあ、ちょっと行ってみようか」と応じてもらえることがあるのです。

>>2以降に続く

弁護士ドットコム 2017年10月08日 10時36分
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