日本版のGPS衛星「みちびき」の4号機が10日、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。アメリカのGPS衛星同様、カーナビなどの地上の機器に位置情報を送る衛星だが、その精度はGPSを大きく上回るという。自動運転支援やドローンによる配達など、その利用目的は公式には民間利用だとされている。しかし、国内メディアがほとんど触れない中、複数の海外メディアが「北朝鮮のミサイル施設の破壊」をその主要任務に挙げている。

◆GPSの本来の目的は軍事利用
「みちびき」4号機は、日本の真上を1日8時間飛行する準天頂衛星の3機目。8月に打ち上げられた静止軌道衛星の3号機と合わせ計4機による24時間体制で日本と周辺地域に位置情報を提供する。

現在、我々がスマートフォンやカーナビで得ている位置情報は、アメリカのGPS衛星から提供されている。GPS(Global Positioning System)は、現在では幅広く民間でも利用されているが、もともとは米軍が冷戦時代に軍事利用目的で開発したものだ。今や我々の日常生活にGPSによる位置情報は欠かせないが、最大10メートルとされる誤差やビルの谷間などには信号が届きにくいといった課題も残されている。

 新しい「みちびき」のシステムは、日本上空に衛星を置くことで、これらの課題を克服したとされる。利用範囲は日本周辺に限られるが、誤差は数センチ単位にまで減少し、障害物の影響も受けにくいという。そのため、自動運転支援やドローン配達など新しい分野での利用が期待される一方、GPSが元来目指していた軍事利用の面でも、海外視点では大いに注目されているのだ。

◆巡航ミサイルのピンポイント誘導に利用か
 英デイリー・エクスプレス紙(電子版)は、ズバリ『日本が北朝鮮のミサイル施設を破壊するためにGPS衛星を打ち上げ』というタイトルで打ち上げのニュースを記事化。「みちびき」によって「北の独裁王朝が設置したミサイル発射施設をピンポイントで割り出し、主要設備を巡航ミサイルで排除することが可能となる」としている。

 エクスプレス紙は「公式に発表された目的は、新ビジネスを支援し、経済成長を後押しするというものだ。しかし、専門家らは、北朝鮮による脅威が増す中、その重要な目的は平壌を監視することだと言っている」としている。同紙は、「World War3(第3次世界大戦)」というカテゴリーを設けて一連の北朝鮮情勢のニュースをまとめているが、この「みちびき」打ち上げの記事もそこに分類されている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、「潜在的に、北朝鮮のミサイル発射施設を破壊する能力を飛躍させる狙いがある」と、「みちびき」について報じている。

「みちびき」のシステムが単独で運用可能になるまでには、数年を要するという。それまではアメリカのGPSシステムの協力を得て運用される(WSJ)。一部では年内の開戦もささやかれる北朝鮮情勢だが、数年を待たずとも米国との共同作戦という形で「みちびき」のシステムが軍事利用されることがあるかもしれない。

◆電波妨害機能も搭載
「みちびき」には、高度な電波妨害機能も搭載されているという。有事の際には北朝鮮のレーダー網や通信網を無力化することができ、さらにその発する信号も高度に暗号化されているため敵の妨害攻撃に対する防御力も非常に高いとされる。「平壌によるあらゆる電波妨害の試みにも影響されない」と、エクスプレス紙は書く。

 北朝鮮は実際に、近年繰り返し韓国に向けてGPSの妨害電波を発信し、航空機や船舶の運行にも大きな影響が出ている。日本も朝鮮半島有事を見据えて、これに対抗する能力を「みちびき」に与えたということのようだ。

 WSJの見方はもう少し冷静だ。同紙もやはり「みちびき」の軍事的な能力の高さを指摘しているものの、「最も大きな恩恵を受けるのは自動運転車の開発ではないだろうか」としている。同紙は、欧州、インド、中国もそれぞれのGPS衛星を開発していることにも触れている。民間利用と軍事利用の両方で衛星による技術革新を見据えているのは、日本だけではないようだ。

Text by 内村浩介

Oct 16 2017
https://newsphere.jp/technology/20171016-2/

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