少子化の影響で、産科が婦人科や内科などの診療科と病棟を共有する「産科混合病棟」が全国で広がっている。出産数の減少で発生した空きベッドを病院側が埋めようとするためだ。お産や産後ケアを専門とする助産師が、産婦と他科の患者を同時に受け持つケースも急増しており、出産環境の質の低下や院内感染の危険性を懸念する声が上がっている。(貝原加奈)

 「食事や排せつの介助が必要な患者の世話が増えている。終末期の患者の看護もあり、常に優先順位をつけて動かないといけない」

 姫路赤十字病院(兵庫県姫路市)にある産科混合病棟の助産師2人が、病棟の厳しい現状を訴えた。

 同病院の産科混合病棟は、産婦人科と内科、小児科からなる。女性のみの50床で、認知症高齢者の急性期患者や、子宮がん患者ら術後のケアが必要な人までさまざまな患者が入院する。産婦を待たせてしまうこともあるといい、助産師は「プロとしてもっと丁寧にお産に携わりたい」と本音を語る。

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 2016年に日本看護協会(東京都)が全国のお産を取り扱う526施設について行った調査によると、産科のみの病棟は全体の22・5%にとどまる。一方で、約3割が婦人科との混合で、婦人科以外の診療科との混合病棟は約半数に上った。

 また、助産師の患者の受け持ち方については、43・7%の施設で「他科患者と産婦を同時に受け持つ」と回答。10・4%だった12年の調査結果から急増した。「分娩(ぶんべん)介助時のみ他科患者は受け持たない」とした施設も19・4%あり、出産前後の不安な産婦に十分なケアができない現状が浮かび上がった。

 今月7日、神戸市内で開かれた「日本母性衛生学会総会・学術集会」のシンポジウムでは、医療・看護関係者や専門家らが、混合病棟の実態や課題を報告。参加した助産師からも「歯科や皮膚科と混合になり、モチベーションが下がっている」「男性の認知症患者が歩き回っている」−など問題点を指摘する声が上がった。

 「病院側は経営上の理由から、産科の空き床を減らしたい考えがある」と、神戸大大学院保健学研究科の齋藤いずみ教授(58)はそうした背景を説明する。

 産科における助産師の配置人数について、日本では特に法的な基準はなく、病棟では、助産師も看護師も同じ看護職員として、7人の患者に対し1人の割合で配置される。ただ、産科混合病棟では「患者の死亡と出産の看護が重なるケースもあり、現場では明らかに人手不足になっている」と齋藤教授。大阪急性期・総合医療センターの小児科医からは、他科の成人患者からの院内感染の危険性が高まる懸念も報告された。

 母親の立場から、「日本妊産婦支援協議会りんごの木」代表の古宇田(こうた)千恵さん(47)は「つらい出産体験から、育児不安につながる人もいる」と指摘。「出産前後の助産師の励ましや関わり方次第で母親として自信が持てるようになる」と出産前後の丁寧なケアを求めた。

 最後に「マンツーマンで助産師が産婦につける雰囲気を、現場からつくっていきたい。ケアの大切さについて、私たち助産師が声を上げよう」と姫路赤十字病院の太田加代看護師長(53)が参加者に呼び掛け、締めくくった。

産科混合病棟での助産師の患者の受け持ち方
https://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201710/img/d_10686428.jpg

配信2017/10/29 10:20
神戸新聞NEXT
https://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201710/0010686426.shtml