モスクの夕食会に参加し、イスラム教徒と話す自覚さん(左)。モスクには足繁く通っている=大分県別府市
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 お寺でイスラム講座を開くなど多文化共生への啓発に力を入れる僧侶が大分県中津市にいる。曹洞宗善隆寺の副住職、自覚大道(じかくだいどう)さん(43)。非政府組織(NGO)の国際支援活動でイスラム教徒と共に汗を流し、内戦も目の当たりにした経験から「対立や偏見は無理解から生まれる」と痛感したことが根底にある。県内のイスラム教徒と市民の交流が少しずつ広がっている。

 「日本に来て困ったことは?」。今月初旬、同県別府市のモスクで定期的に開かれる夕食会で、作務衣(さむえ)姿の自覚さんがバングラデシュ出身の留学生の男性に話し掛けた。「食事が困る。(イスラムの戒律に従った)ハラールを確認しないといけないから」と返す留学生に、自覚さんは何度もうなずいた。

 そばにいたカーン・ムハマド・タヒルさん(50)も、同市に住むパキスタン出身のイスラム教徒だ。「自覚さんは素晴らしい。イスラム教をよく知っている」

 東京の大学を卒業した自覚さんは、アジアで内戦にさらされる子どもたちを支援するNGO「シャンティ国際ボランティア会」で働いた。「いずれ故郷で寺を継ぐなら東京でしかできない活動を」と考えていた。

 職員にはイスラム教徒もいた。思い込みや偏見から過激派と同一視されることも多く、世間の視線は厳しかった。しかし目の前の彼らは真面目で、平和を愛していた。「宗教者としてもNGO職員としても、支援する相手国の人々を知らなくていいのか」。イスラム教に無知だった自分を恥じ、学び始めた。

 2013年に帰郷した後は、九州の曹洞宗の僧侶を対象に人権研修を企画した。テーマはイスラム教。ちょうど過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭した頃だった。テロと結びつくイスラムのイメージを払拭(ふっしょく)したかった。モスクに通い、研修会では僧侶にイスラム教のお祈りも見てもらった。今年6月には市民向けの交流会「おてらーでイスラーム」を開催。寺にイスラム教徒を招き、生活や文化について話してもらった。自覚さん自身も、イスラム教徒側から講師として呼ばれるようになった。

 NGO時代に見てきたアフガニスタンなどの内戦の実態が頭から離れない。民族や宗教への無理解は対立を生み続ける。「尊重する心は知識がないと生じない。日本にも外国人が増える今、せっかくなら仲良くなりたいよね」。そう思い、モスクに足を運ぶ。

=2017/12/27付 西日本新聞夕刊=

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