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1月20日 5時54分
アメリカのマティス国防長官は、トランプ政権下で初めての「国防戦略」を取りまとめ、公表しました。この中では、中国やロシアとの軍事的な競合への対応を最優先の課題とし、アメリカの優位を維持するため核を含む軍事力の増強を急ぐとともに、同盟関係を強化するとして、日本などの同盟国の役割を重視する姿勢を強調しています。

アメリカのマティス国防長官は、トランプ政権下で初めてとなる「国防戦略」を取りまとめ、19日、公表しました。

首都ワシントンで演説したマティス長官は、今回の戦略について、「いまやテロではなく、大国間の競争こそが最も重要な焦点だ」と述べ、中国やロシアとの軍事的な競合への対応に最優先で取り組む方針を鮮明にしました。

公表された戦略では、中国について、「経済力を使って周辺国を脅し、軍事力もてこにインド太平洋の秩序を自国に優位な形でつくりかえようとしている」と強く非難し、ロシアに対しても、「ヨーロッパと中東の経済・安全保障の構図を都合よく変えようとしている」として、両国を既存の国際秩序への脅威となる「修正主義勢力」だと位置づけています。

また、北朝鮮については、核ミサイルや生物化学兵器を追求しており、イランとともに「ならず者政権」だとし、地域や国際社会を不安定化させていると指摘しています。

一方で、中国とロシアの軍備増強と急速な科学技術の発展で、軍事面でのアメリカの優位が脅かされているとして、これを維持するために軍の即応力を高め、核兵器や宇宙・サイバーの分野を中心に軍事力の近代化と増強を急ぐとしています。

さらに、これと並ぶ取り組みとして同盟関係の強化を挙げ、「同盟国には、互いの利益となる集団安全保障に寄与するよう公平な負担を期待する」として日本などの同盟国の役割を重視する姿勢を強調しています。

中国をにらんだ国防戦略への転換

アメリカは2001年の同時多発テロ以降、「史上、最も長い戦争」とも言われる対テロの軍事作戦を続ける一方、中長期的な国防戦略では、中国の軍事的な台頭をにらんでアジア太平洋地域への関与を強める姿勢へと徐々にかじを切ってきました。

ブッシュ政権の時代には、アフガニスタンでの対テロの軍事作戦、そしてイラク戦争の「2つの戦争」を進めながらも、2001年に発表した国防戦略で、西太平洋に展開させる海軍の部隊を増強する方針を示しました。

その後のオバマ前政権は「リバランス」と銘打ってアジア太平洋重視の姿勢をより鮮明に打ち出し、海軍全体の6割の部隊をこの地域に展開させる計画を示したほか、アジア諸国との関係強化に取り組み、中国の海洋進出へのけん制を強めてきました。

しかし、アフガニスタンとイラクでの「2つの戦争」の終結という課題にも直面し、アメリカ軍の早期撤退を目指した結果、中東で生まれたいわゆる「力の空白」をつかれる形で、過激派組織IS=イスラミックステートの台頭を招き、アフガニスタンでも反政府武装勢力タリバンの巻き返しを許して、対テロの軍事作戦へのさらなる関与を余儀なくされました。

この間、中国は、経済発展を背景に海軍を中心とする軍事力の近代化と増強を急速に進めると同時に、南シナ海に大規模な人工島を造成して一大拠点も築き上げ、アジア太平洋での存在感を一気に拡大していきました。

予想を上回る速さの中国の軍事的な台頭に危機感を募らせたオバマ前政権は、2年前の実質的な国防戦略の見直しで、対テロの軍事作戦の収束を急ぐとともに、中国とロシアへの対応に重点を移していく姿勢を示しました。

トランプ政権は事実上、この戦略を引き継いで対ISの軍事作戦に一定のめどをつけることに成功し、国防戦略の焦点を中国とロシアとの軍事的な競合への対応に明確に定める方針を打ち出した形となりました。