世界的には保守とリベラルの争点は「大きな政府か小さな政府か」という対立軸だが、この基準でみると安倍政権は「超リベラル」である。
海外の評価でも、ドイツのメルケル首相と並んで「リベラルの指導者」と目されている。

■ アベノミクスは「財政ファイナンス」

 アベノミクスは、5年たってもインフレ目標を達成できないが、景気は好転した。それは財政支出を拡大したからだ。
安倍首相は消費税の増税を2度も延期し、「教育無償化」などのバラマキで財政赤字を増やした。こういう政策を取ると普通は金利が上がるが、
国債を日銀に財政ファイナンスさせれば、金利は抑えられる――これがアベノミクスの発想である。

 もちろん黒田総裁は、財政ファイナンスとは認めていない。政府がいくらでも借金できるようになると金利が上昇し、
それを買って日銀がどんどん日銀券を発行すると、ハイパーインフレが起こると思われていた。

 ところが今は、日銀のバランスシートがGDP(国内総生産)に匹敵する規模になっても、金利は上がらず、インフレにもならない。
これは従来の常識では考えられないが、安倍首相がそれを利用するのは、政治的には賢明である。

 財政支出や金融緩和は、誰もが歓迎する。今まではそういう超緩和政策をとると、財政赤字が膨らんで、金利上昇やインフレで経済が破綻すると思われていた。
ところが21世紀の日本では、従来の常識とは違うことが起きているように見える。

 金利がマイナスになるような状況で、金利上昇を心配する必要はない。インフレになったら、日銀が緩和をやめて物価上昇率2%で止めればよい
――首相はそう考えているのだろう。これは史上最大の「大きな政府」の実験である。

■ 将来世代からの「見えない所得再分配」

 リベラルという言葉は日本では「左翼」の代名詞に使われるが、アメリカでは民主党の政策である。彼らの支持基盤は貧困層なので、
リベラルの最大の政策は所得再分配だ。これは納税者の負担になるので「高福祉・高負担」がリベラルの政策だ。

 ヨーロッパでも北欧はリベラルな政策を取っているので、国民負担率も高くなる。ところが日本の税負担率のGDP比は2016年度で26.1%とアメリカとほぼ同じで、
日本は「高福祉・低負担」のように見える。

 これは錯覚である。国民負担は税だけでなく社会保険料もあり、財政赤字も将来世代の負担だ。これを合計すると日本の国民負担率は43.9%で
、ヨーロッパに近い。特に社会保険料は「大きな政府」の代表だと思われているスウェーデンの3倍だ。

 中長期でみると、現在世代の消費は(まだ生まれていない)将来世代の負担になる。特に日本は社会保障特別会計の赤字を一般会計で埋め、
それを国債でまかなっているので、将来世代の国民負担率(税+社会保険料)は60%を超える。

 しかし将来世代には選挙権がないので、消費税を抑制して「見えない税」である社会保険料を増やし、現在世代の利益を最大化する安倍首相の政策は合理的である。
自民党も、現在世代が消費して将来世代が負担するシステムを変える気はない。

 つまり日本は財政赤字や社会保険料で国民負担を偽装した、小さく見えて大きな政府なのだ。所得再分配の規模という点でも、、、、
将来世代から現在世代に1000兆円以上の所得を移転する安倍政権は超リベラルである。

 こういう問題を民主主義で解決することはできない。それは現在世代の民意を反映する制度なので、将来世代の利益を考えないことが民主的なのだ。