http://www.bbc.com/japanese/43455121

2018/03/19
ファーガス・ウォルシュ医療担当特派員

幹細胞の移植手術が多発性硬化症(MS)治療に「大変革」をもたらすかもしれない――。世界4カ国で行われた臨床試験の結果、幹細胞移植が病状の進行を食い止め、改善させることが明らかになった。

MSはさまざまな神経症状が再発と寛解を繰り返す中枢性脱髄疾患の一種で、英国では10万人が罹患している。

臨床試験は100人超の患者を対象に、米シカゴ、英シェフィールド、スウェーデン・ウプサラ、ブラジル・サンパウロで行われ、このほどリスボンで開かれた欧州血液骨髄移植学会で中間報告が発表された。
試験では患者を造血幹細胞の移植手術を受けたグループ(52人)と薬物治療を受けたグループ(50人)に分けて経過を観察。この結果、1年後までに再発した患者は幹細胞移植を受けたグループからは1人だったのに対し、薬物治療グループでは39人に上った。

3年後までの再発率は幹細胞移植グループが6%、薬物治療グループが60%だった。
また、幹細胞移植グループでは症状が改善した一方、薬物治療グループでは悪化していた。
臨床試験を主導した米シカゴ・ノースウェスタン大学のリチャード・バート教授は、「データは明らかに、現在最も有効とされている治療薬より細胞移植に効果があることを示している。神経科学界はこの治療法に懐疑的だったが、これらの結果はそれを覆すだろう」と話す。

新たな治療法では、化学療法で患者の機能不全に陥った免疫システムをいったん破壊する。その後、患者の骨髄から採取しておいた幹細胞を移植して免疫システムを再始動させる。
骨髄の幹細胞はMSを発症していないため、新たな免疫システムを構築できるという。

英シェフィールドのロイヤル・ハラムシャー病院のジョン・スノウデン教授は「結果にとても興奮している。薬物治療が効かなかった患者にとっては大変革となり、MSを食い止めることができる」と語った。
同病院の神経科医バシル・シャーロック教授も「これは中間報告だが、それを差し引いても、私がこれまでに目にしたMSに関する臨床試験で最も良い結果が出ている」と話した。

恐怖と共に暮らす病気

英ロザラム在住のルイーズ・ウィレッツさん(36)は2010年、28歳でMSと診断された。
彼女はMSについて「生活を支配され、次の再発におびえながら暮らしていました」と語る。
「最悪だったのは、身体が全く安定せず、ベッドから起き上がれなかったときです。あくるのも困難で、車椅子で生活したこともあります」

「MSは認識も影響がありました。脳に霧がかかったようで、文字を読み間違えたり、会話についていくのが困難でした」
BBCはドキュメンタリー番組「パノラマ」で、ルイーズさんが2015年10月に受けた幹細胞移植手術の模様を取り上げた。
現在、彼女は健康を取り戻している。手術から1年後に結婚し、娘も生まれた。
「MSはただの悪夢だったんだと感じています。今ではMSを中心に人生プランを練るのではなく、毎日を思うがままに生きています」

手術にかかる費用は約3万ドル。1年分の薬物医療と同じくらいだという。
ただ医師は、全てのMS患者に幹細胞移植が有効だというわけではなく、数週間、隔離された状態で化学療法を受けるなど、その治療過程も過酷なものだと指摘する。
MS学会のスーザン・コールハース博士は、造血幹細胞の移植手術は「イングランドでは近いうちに確立された治療法として認知されるだろう。その時、われわれの最優先事項は、この治療法が有効な人に確実に手術を受けられるようにすることだ」と話した。
「既に何人かの患者にとっては人生を変えるような結果が出ているが、住んでいる地域で治療の可否が決まってはいけない」

多発性硬化症(MS)とは

MSでは脳や脊髄などに病変が起こる
視覚や四肢の動き、五感、平衡感覚などに問題が起きる
平均寿命がわずかに縮まるとされている
英国では患者が10万人以上といわれている

出典:国民保健サービス

(英語記事 Stem cell transplant 'game changer' for MS patients)