仕事や学校に行けず、家に閉じこもるひきこもりの高齢化が進んでいる。

 兵庫県内では元ひきこもりの男性が40、50歳代を対象とした家族会を発足するなど、当事者側の動きがある一方、行政の動きは遅れ気味。いじめなどを引き金に起こる「若者特有の問題」と捉えられていたため、国の実態調査の対象が15〜39歳に限られていたからだ。今後の社会問題になる可能性が高く、対応が急がれる。

 宍粟市の島田誠さん(44)は、12年間のひきこもりから脱し、今年1月、ひきこもりの本人やその家族が悩みなどを語り合う「エスポワール兵庫」を発足した。

 姫路市で同月に開いた初集会には10人が参加。「息子のひきこもりが20年近い。一緒にカウンセリングに行くなどしたが効果はなく、今はもう神頼み」「息子の生きる世界は家族とインターネットの中だけと非常に狭い。こんな場があれば、息子が外に出られるかも」などの声があがった。島田さんは「同じ苦しみを持つ仲間がいるとわかれば気は休まるし、外に出るきっかけにもなる」と期待する。

 島田さんが外に出る契機も、家族会の存在だった。小学生時代にいじめに遭い、周囲とうまくコミュニケーションが取れなくなった。高卒後に薬品メーカーに就職したが、なじめず、2005年4月頃から自宅に閉じこもった。ほこりが積もっていく自室で、「将来のことが怖くて怖くて、何も考えないようにしていた」。「脱出」したのは昨年4月。中高年のひきこもり支援団体「エスポワール京都」の代表者の講演を聞き、「自分だけではない」と勇気づけられたという。

 ただ、行政の支援は不可欠だと考えている。昨年、県内の就労支援窓口に赴いたが、「対応するのは39歳まで」と門前払いされ、途方に暮れた。「仲間で励まし合うことはできても、就職などは行政の手助けがなくては難しい」と訴える。

 県は民間団体などに委託する方式で、ひきこもり専用の電話相談を若者対象に2010年に始め、14年からは全世代に対象を拡大。同年から阪神、播磨、但馬、丹波、淡路の5地域別に窓口対応や家庭訪問を行っている。11年に行った各窓口や保健所などに来た人への聞き取りで、786人中141人(18%)が40歳以上と、高齢化の傾向も表面化していた。

 中高年層の実態調査を巡っては、京都府や佐賀県などが17年度、民生委員を通じるなどして40歳以上のひきこもりの実態を調査。兵庫県内でも川西市や豊岡市、赤穂市などが独自で進めているが、県は本格的な実態調査に着手していない。内閣府が18年度に初めて行う中高年対象の全国調査を受けて、新たな対応を考えるという。

 KHJ全国ひきこもり家族会連合会(東京都)の上田理香事務局長は「ひきこもりの長期化に伴い親も高齢になる。世話をする人が亡くなり、お金もない中でどう生きていくか。行政が考えないといけない社会問題だ」と指摘する。

 県立大看護学部の船越明子准教授(精神看護学)は「実態調査は当事者の孤立感を解消できる支援の一つにもなるので急ぐべきだ。社会復帰の成功事例を共有するなど対策のノウハウを自治会レベルにまで浸透させ、家族だけでなく地域全体で支援していく必要がある」としている。(松田智之)

 ◆ひきこもり=国の定義では、仕事や学校などに行かず、6か月以上、家庭にとどまる状態を指す。内閣府は2015年に15〜39歳を対象に行った実態調査をもとに、全国に54万人いるとの推計を明らかにしたが、40歳以上のデータはない。KHJ全国ひきこもり家族会連合会が16年度に会員対象に行った調査では、40歳以上が25%を占めた。内閣府は18年度、40歳以上の実態調査を行う。

http://sp.yomiuri.co.jp/national/20180325-OYT1T50024.html