女性は早稲田大学を卒業後、北京大学大学院に留学中。大学院の卒業(修了)時期が7月なので6月初旬に修士論文の初稿の提出が迫り、
合間を縫って帰国し、マスコミ業界の選考を受けている。

「自分が本当に何をしたいか考える暇もないまま、就活をしています」

一斉に走り出した就活の波にいったんは乗るが、内定を得て落ち着いてから、じっくり考える。

■迷いすぎてホワイト企業、そして退職

「売り手市場なので、選択肢が多くて、確固たる軸を持っていないと、本当にやりたいことは見つけられない」

2017年4月にメーカーに就職し、1年後に退職した有名私立大学出身の男性(24)は話す。退職後はカナダに留学する。

就活を始めたのは、大学2年生の夏のインターンから。就活時は35社にエントリー、計7社から内定を受けたが結局、
「迷いに迷い、実家から通えたり、待遇を比較したりして、一番選ばないはずのホワイト企業」を選んだ。

男性の就職先は、土日休み、待遇も悪くなかった。

「研修は飲み会。営業成績が賞与にも反映されない」

成長が感じられず、「1年が無駄になった」と思い、退職を決めた。

同期は19人中、3人が辞めたという。退職者のいずれも就活時、他社からも内定を受けていた人たち。同社のみ内定していた人は辞めていないという。

男性は退職後、留学先のカナダで、ホテルでのインターンを予定している。同じ系列のホテルで大学2年時にインターンをした経験が楽しかったが、
就活の時、「はっきりとホテルで働きたい気持ちを持てなかった」。待遇も考え、いろんな人の意見を聞いて、「結局、自分を(就職先の会社で良いんだと)
納得させたんですね」と振り返る。

選考のスケジュールがつまりすぎていたので、「受かる確率を考えて、あえて選考を辞退したところもある」。海外駐在の可能性もある大手旅行会社も受けたが、
最終面接を辞退した。その会社のインターンが激務だったので、自分でいろいろ理由をつけて「志望ではないと自分に思い込ませた」。男性は就活を6月で終えたが、
その理由は「キリがなかったから」。自分の中で区切りをつけた。

■3割以上の企業が3月から“フライング選考”

ディスコのキャリタスリサーチによると、「とりあえず内定競争」が激化する大きな背景が、売り手市場ということだ。

3月に説明会、6月に選考解禁と以前より短期決戦だが、「さらに企業は他社に先んじて選考をしようとし、学生が企業研究などに動ける時間が短くなっている。
結果、自分の適職に迷いを持ったまま、就活を終える学生がいる」(武井房子上席研究員)。働き方改革の流れに沿って、「企業は働きやすさを前面に紹介し、
学生もその環境を求めて就職するが、入社後に新入社員が業界や仕事に興味を持てないこともある」と武井さん。

同社の調査によると、選考解禁は6月だが、約3割の企業が3月には選考を開始している。4月も合わせると、7割の企業が選考を始めている。
実際に6月に選考を始める企業は1割程度だ。学生にとっては3月から説明会や選考の予定が大量に降ってきて、処理しきれないまま、内定が決まる。

入社1年目で辞める人の割合は、厚生労働省によると、2016年卒業の新入社員は11.3パーセント、2015年卒は11.9パーセント、2014年卒は12.3パーセントと
ここ数年1割台で推移している。

「周囲がとりあえず流れに乗って就活をして、たくさんのプレッシャーを受ける中、自分を見失っていく人が周りに結構いる」
(2017年3月に大学を卒業した男性、現在はベンチャー企業で働く)。

売り手市場がゆえに短期決戦に拍車がかかり、学生たちは時間に追われるがままに内定を獲得、入社後に違和感を覚える新社会人が
生み出されているのかもしれない。