石川県警 「効率重視」で1件あたり被害増 広域化も
毎日新聞2018年6月4日 08時06分(最終更新 6月4日 09時42分)
https://mainichi.jp/articles/20180604/k00/00e/040/144000c

 架空請求詐欺や「オレオレ詐欺」などの総称「特殊詐欺」。石川県内での被害額は、ここ数年は減少傾向だったが、今年に入って前年を上回るペースとなっている。石川県警によると、1人の被害者が繰り返し金をだまし取られる事案も増えており、注意を呼びかけている。

犯行「効率重視」
 今年の石川県内での特殊詐欺被害は、4月末までに24件と前年同期より14件少ないが、被害額は約2600万円多い8000万円に上る。県警捜査2課特殊詐欺対策室の藤井康浩室長は「犯人側は『だませているな』と感触を得た人にとことんつけ込むなど、手口が悪質になっている」と分析する。3月には「訴訟取り下げの費用」という名目で、金沢市の50代女性が郵送やコンビニエンスストアでの支払いを計60回も繰り返し、計2000万円以上をだまし取られた被害が発覚した。
 特に架空請求詐欺は被害者の心理を巧みに突く。地域防犯が専門の摂南大の中沼丈晃准教授は「『訴訟』と言えば相手の恐怖心もあおることができるし、『早く終わらせたい』と支払いを急がせることができる」と解説。何より同じ相手をだまし続けるのは「(犯行の)効率を重視する」からだという。
全件通報で未然に
 「金融機関と連携した水際対策の強化と、『だまされたふり作戦』を入り口にした中枢の容疑者逮捕。この二つが重要になる」。5月21日に石川県警本部で開かれた特殊詐欺対策の担当者会議で、河原淳平本部長が訓示した。水際対策で特に強調したのは「全件通報制度」の徹底だ。
 制度は「65歳以上の高齢者が100万円以上を引き出した」など一定の基準にあてはまるケースについて、金融機関が警察に通報し、駆けつけた警察官が本人から事情を聞いて被害を防ぐ仕組み。石川県警は昨年155件(1億4800万円分)の被害を防いだ。認知件数と阻止件数の合計のうち阻止分の割合を示す「被害阻止率」は、全国平均の49・8%を上回る63%。生活安全企画課の川島正近次席は「全件通報制度が効果を上げている面がある」と話す。
 もう一つ、被害防止のカギとなるのは、不審に思った本人が第三者に相談するタイミング。藤井室長は「払えなくなった時点で警察に相談する例が多い」。特に高齢者に関しては、中沼准教授は「子供にお金の相談をするのは難しい」と指摘し「夫婦仲が良かったり、子供が近くに住んでいる人も被害に遭うということを認識するべきだ」と強調する。
新幹線開通で広域化
 特殊詐欺を巡っては、北陸新幹線開業による利便性の向上が被害を助長している面もある。新幹線駅がある石川、富山では、被害者が首都圏まで現金を運ばされ、だまし取られる「手交型」の架空請求詐欺が増加。22年度末に新幹線敦賀開業を控える福井県警の呼びかけで、5月16日には石川、富山と3県警合同の特殊詐欺合同対策会議が初開催された。藤井室長は「今後は3県内のいずれかで詐欺被害が起きると、すぐ他県に波及する」と連携の必要性を語る。
 だます側は次々新たな手法を繰り出す。市民一人一人が、事件を対岸の火事としない意識が重要だ。【岩壁峻】