相模原市の知的障害者施設で46人を殺傷したとして起訴された植松聖被告の手記などを掲載した本が出版される見通しとなり、21日、大学教授らが出版社を訪れ、被告の主張が拡散するおそれがあるとして出版を取りやめるよう署名を提出しました。出版社は「事件を解明し風化を防ぐための議論の材料にしたい」と話しています。

この事件は、おととし7月26日、相模原市の知的障害者施設で、入所していた障害のある人たちが次々に刃物で刺され、19人が殺害され27人が重軽傷を負ったもので、殺人などの罪で起訴された元職員の植松聖被告(28)は「障害者は不幸をつくることしかできない」などと供述しました。

事件から来月で2年となるのにあわせ、東京都内の出版社が書籍化を予定していて、この中では拘置所にいる植松被告との手紙や接見でのやり取りなど、月刊誌で紹介してきた内容や新たに加筆した手記などを、専門家の意見や被害者の家族の声などとともに掲載するということです。

これに対し、21日、静岡県の大学教授や障害がある人の家族会の代表が出版社を訪れ、出版停止を求めるおよそ2000人分の署名を提出しました。

このうち、被告と接見した静岡県立大学短期大学部の佐々木隆志教授は「被告の差別的な思想が本という形で拡散すれば同調する人が増えるおそれがあり危険だ。恐怖を感じる障害のある人や家族のことを考えてほしい」と話しています。

■出版社の編集長「社会で考える材料に」

書籍化を予定している出版社の篠田博之編集長は、出版の趣旨について「事件は障害者差別や措置入院などの深刻な問題を社会に投げかけたにもかかわらず風化しつつある。この間、被告と接見しわかってきたことや社会に与えた影響などをきちんと提示することが必要だと思っています」と説明しています。

そのうえで「被告の主張が手紙などで公開されることで、被害者やその家族がつらい思いをすることがあるかと思いますが、そこに配慮したうえで被告の考えをどう批判して乗り越えていくのか、議論を起こし社会で考える材料となる本にしていきたい」と話しています。

■本に手記を寄稿した被害者家族は

事件で、息子の一矢さん(45)が重傷を負った、神奈川県座間市の尾野剛志さん(74)は、植松被告の手記が載る本に、被害者の家族として被告への反論を寄稿しました。

尾野さんは出版について、「事件を語り、風化させないためには被告のことを語らざるをえないが、被告の言葉が突出するのはどうかと思う。出版社にとっての言論の自由もあるし、すごく難しい問題で良いとも悪いとも言えない」と複雑な心境を語りました。

今回、尾野さんは植松被告の主張に反論するため、同じ本に「黙ってしまうと植松に負けたことになる」と題した手記を寄せました。

この中では、障害のある人それぞれに1人の人間としての個性があることや、事件の背後にある差別や偏見をなくしていくことがいちばん大事だと伝えています。

尾野さんは「植松被告の考えに共感する人が増えてしまったら困るので、正直に言えば本を出してほしくないし、読んでほしくない気持ちもあるが、読み比べてもらって判断してもらうしかない」と話しています。

そのうえで「被告のような思想を持つ人は一握りだと思うが、決してふた握りにはなってほしくないし、一握りの人もいなくなってほしい。心の中は見えないし法律で取り締まれるわけでもないので、『間違っているかもしれない』と思わせられるよう、一人一人の心に地道に訴えていくしかない」と話しています。

■障害のある人たちからは…

植松被告の手記などを掲載した本が出版されることについて、障害のある人たちからは、障害者を差別する考えが形として残ることへの不安の声がある一方で、元職員という立場でなぜ事件を起こしたのか知りたいという声も聞かれました。

東京 世田谷区の障害者支援事業所「HANDS世田谷」では、障害のある人たちがスタッフとして働いていて、事件以来、「命の尊さに障害の有無は関係ない」と訴えています。

以下全文はソース先をお読み下さい

2018年6月21日 21時20分
NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180621/k10011489941000.html