◆日本人個人発明家が3D Touch機能に関してアップルに特許侵害訴訟

「iOSのフリック入力や3D Touchが特許侵害であるとして日本人発明家がAppleを訴える」というニュースがありました。

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フリック入力機能や、画面タッチの強さに反応して通常のタッチ操作と異なる操作を行う3D Touch機能が搭載されています。
こうした機能が自身の持つ特許を侵害しているとして、ワシントン州在住の日本人発明家であるアベ・トシヤス氏がAppleを訴えました。
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というお話しです。

アベ・トシヤス氏とはおそらくこの方だと思います。
オレゴン地裁に6月19日に提出された訴状をこちらに置きました。
問題となった特許US6520699の訴えの根拠になったクレーム52の内容は以下のとおりです。

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タッチ感応型スクリーン上に表示される、それぞれが複数の文字または機能に関連付けられた複数のボタンと、
前記複数のボタンに適用される圧力を検出するための圧力検出手段と、
前記タッチ感応型スクリーン上で行なわれるストロークの動きの方向を検出するための横方向の動き検出手段と、
前記検出された圧力と前記検出された動きに応じて、少なくとも一つの文字または機能を選択する選択手段とを含むユーザー・インターフェース・デバイス。
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訴状を見ると、しっかりと特許の充足論について書かれています。
フリック入力(たとえば、英文キーボードにおいてeからウムラウト付き文字等を入力する機能)、日本語におけるフリックキーボード、3D Touch などが本クレームを侵害することが示されています。

元記事のコメントではアベ氏のことを「トロール」と呼んでいる人がいますが、これは一般的「トロール」のやり方ではありません。
「トロール」であれば、訴状では侵害の根拠も示さずに高額な賠償金を主張して和解(手切れ金)を促すのが普通です。

個人的見解になりますが、少なくとも現在のiPhone/iPadはこのクレームに抵触するように思えますので、アップルは無効論で争うことになるのではと思います(現時点では当該特許には再審査等は請求されていません)。
このクレームはめちゃくちゃ範囲が広いですし、2000年前後にはこの手のタッチスクリーンUIのアイデアが数多く考案されましたので、進歩性を否定できる材料はありそうな気もします。

また、元記事のコメントでは、なぜ今頃になって訴訟をしたのかという疑問が見られました。
単に訴訟費用を出してくれるスポンサーが今出てきたというだけの話かもしれません。
また、特許の存続期間満了が2021年に迫っているのであまり時間がないということもあるでしょう。

しかし、これも個人的な推測ですが、上記クレームにおける「圧力」(force)の解釈によるところが大きいのではないかと思います。
iPhone/iPadのタッチスクリーンは感圧式ではなく静電容量式なので、"force"を検出する要素を含むかというとちょっと微妙です。

しかし、3D Touch機能の登場により指の圧力も検出されるようになったことで、"force"検出要素を含むという点が主張しやすくなったと思われます。
この点が訴訟に踏み切った理由なのではと思います(3D Touch以前のiPhoneでは充足していなかったかもしれないという点は、原告に不利になる話なので当然ながら訴状には書いてません)。
ということで、これは特許ゴロ(トロール)のケースではまったくなく、日本でもかつてあったような真面目な個人発明家対アップルという巨大企業のガチンコ対決だと思いますので、ちゃんと行方を見守りたいと思います。

Yahoo!ニュース 2018/6/22(金) 13:10
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20180622-00086829/