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文科省内に衝撃「次官候補のエースがなぜ……」
2018年7月4日 22:05

現職幹部の逮捕に文部科学省では大きな動揺が広がった。科学技術・学術政策局長の佐野太容疑者(58)は次官候補にも名前が挙がるエリート。私大支援事業の対象にする見返りに自分の子供を合格させる――。文教行政を預かる官僚としてあるまじき不祥事に、職員らは言葉を失った。

「仕事をたんたんとこなす優秀な上司。家族のことやプライベートなことは言わないタイプだった」。佐野容疑者の直属の部下だという男性はニュースを聞いてぼうぜんとした様子。今回の事件では、東京医科大側が私大支援事業で便宜を求めたとされる。私学助成に関わる部署の職員は「事実関係がまだよく分からず、何とも言えない」と戸惑いを隠せなかった。

佐野容疑者は早稲田大学の修士課程を修了後、当時の科学技術庁に入った。省内では社交的で人当たりのよい人物として知られ、2012年には国会との調整を担当する総務課長に就任。「国会折衝にたけている」という評価を得ていた。科技系の幹部が総務課長に就いたのは珍しいという。

その後も官房長などの要職を歴任した佐野容疑者。男性幹部の一人は「優秀だが、部下に仕事をまかせることもできる。次官になるのは間違いないといわれていたエース。あんな不正に手を染めるとは信じられない」と驚いた。

文科省は17年に組織的天下りが発覚するなど、不祥事が続く。ある女性職員は「少し落ち着いてきたと思ったところだった。文科行政の信頼に関わる。本当なら残念」と表情を曇らせる。

一方、汚職事件の舞台になった東京都新宿区の東京医科大学。医学科2年の男子学生(19)は「もし局長の子供の代わりに誰か落ちていたとしたら、すごく嫌だと思う」と非難した。別の男子学生(20)は「まだ大学側から説明は何もない。もう少し事実関係が明らかになるのを待ちたい」。

東京医科大の広報担当者によると、5日に学生に対して、通常通り大学運営を続けることなどを説明する。担当者は「不正が個人か組織ぐるみなのかは不明で、どの段階で起きたかも把握できていない」と疲れた様子で話した。

国会では野党が批判を強めた。立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は4日、「安倍晋三政権の体質だ」と批判した。学校法人「加計学園」を巡る問題について「首相も友達を優遇したのではないかと言われている。今回の局長も行政を私物化している」と述べた。

金品以外でも賄賂に
 刑法の収賄罪の賄賂は、公務員の職務行為に対する対価としての不正な利益と定義される。現金や高価な物品などが賄賂として贈られるケースが一般的だ。
 今回のケースでは、文科省による私立大学支援事業の対象校の選定に関して東京医科大に便宜を図る見返りに、同大を受験した佐野容疑者の子供を「合格させたこと」が賄賂にあたるとされた。
 甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「組織内での昇進やゴルフ旅行など、人の欲求を満たす行為であっても賄賂と認められた判例がある」と指摘。「本来は支援事業の認定基準に満たない大学を、立場を利用して対象にさせたかどうかや、子供の入試結果の点数水増しとの因果関係をどう立証できるかが捜査のポイントとなる」とみている。