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濁流が覆う陸の孤島 断水の呉「護衛艦風呂」3時間待ち
佐々木康之、高橋俊成
2018年7月10日16時51分

 三方にそびえる山と、目の前に浮かぶ島々に囲まれた広島県呉市。約130年前、この天然の要塞(ようさい)に軍港が築かれ、軍の機密とされた戦艦「大和」建造の地にも選ばれた。いまも22万人が暮らすこの地を、豪雨による土砂や濁流が覆い、街は陸の孤島になった。

 10日朝、JR呉駅前のガソリンスタンドには「給油は緊急車両のみ」と書かれた札が下がっていた。
 呉市では多くの店舗が7日から販売量を制限する営業に切り替えたが、9日までにガソリンが底をつき、休業が続出している。隣接する広島市や東広島市に通じる幹線道路の広島呉道路(クレアライン)や国道が寸断されたからだ。

 9日、山越えで呉市と熊野町を結ぶ県道が3日ぶりに開通し、一部の店は販売を再開したが、JR呉駅前のスタンドの店長(47)は「やっとローリーが来ることになったが、昼なのか、夜になるのか」。通常はガソリンと軽油で10キロリットル超を提供できるが、「10リットル制限で200台に売れるかどうか」と気をもむ。

 スーパーやコンビニエンスストアも不安を抱える。
 呉市海岸4丁目の大手コンビニエンスストアには、9日昼前に商品配送のトラックが着いたが、下ろされたのはおにぎり約150個と弁当十数個。生鮮品はバナナだけ。オーナーの浜田久司さん(46)は「今日中に配送が平常に戻ると聞いている」。だが、10日朝になっても、弁当や生鮮品の陳列棚は空のままだ。

 水不足も深刻だ。
 9日朝、海上自衛隊呉基地。普段は開かない「D(デルタ)門」と呼ばれる門が開き、市民が次々と車で訪れた。目当ては基地に停泊する護衛艦「かが」など4隻の風呂だ。隊員が「入浴まで3時間待ち」の札を立てたが、引き返す車はない。
 水道の断水を受け、海自が8日に始めた。艦内の洗濯機も開放し、給水所も基地内に設けた。呉市の対岸の江田島市からも住民を乗せた揚陸艇が行き来し、艦内に特設した風呂に入ってもらっている。家族4人で訪れた呉市の主婦(36)は「地元の給水所では4時間も待った。ここでは入浴を待つ間に水を詰め、洗濯もできる」と笑顔を見せた。

 断水の原因は、広島市を流れる太田川から呉、江田島両市などに水を送る水道用トンネルのトラブルだ。豪雨が襲った6日夜に発生し、2市で10万世帯、約20万人に影響が出ている。広島県によると、トンネルに土砂が入ったのが原因で、復旧の時期は見えない。
 呉市は7日から各地で給水を続けているが、主力の給水車は1回に300リットルしか運べない。

 JR呉線も不通が続き、頼みの綱は海路だ。呉港には、広島港(広島市南区)に向かうカーフェリーや高速船を利用する通勤客や、広島への買い出しや一時的に呉を離れる人々の姿が絶えない。9日午前、広島港にフェリーで到着した主婦(57)は、「呉市の店からは食料が完全に消えた。JRも車もだめ。何とかフェリーに乗れて助かった」と語った。(佐々木康之、高橋俊成)