https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44775913

HIVモザイクワクチン、臨床試験で好調=医学誌
2018年07月10日

アレックス・テリエン・ヘルス担当記者、BBCニュース

世界中の人々をHIVウイルスから守る可能性のあるワクチンが、臨床試験で好調な結果を残した。

医学誌「ランセット」で発表された研究結果によると、このワクチンはHIVウイルスのさまざまな種類に対する抗体を作るのが目的。393人を対象にした臨床試験では、HIVに対する免疫システムが構築された。
またサルを使った実験では、HIVに似たウイルスからサルを守る効果があった。

今後、このワクチンによる免疫反応がヒトのHIV感染を予防するのかどうか、さらなる試験が必要となっている。

世界ではおよそ3700万人がHIVウイルスに感染しているか、エイズを発症しており、毎年約180万人が新たに診断されているという。

HIVの治療方法は進歩している一方、ウイルスの除去や予防ワクチンはまだ開発されていない。
HIV感染を防ぐ「プレップ(曝露前予防)」と呼ばれる薬があるが、ワクチンと違ってほぼ毎日、定期的な投与が必要となる。
ワクチンへの投資は科学者にとって大きな挑戦だ。HIVウイルスにはさまざまな種類があるだけでなく、我々の免疫システムからの攻撃をかわすための突然変異に長けているからだ。
これまでのHIVワクチン開発では、世界の一部地域で広がる一部の種類に限定されていた。

しかし今回発表された「モザイク」ワクチンは、異なるHIVウイルスの断片を組み合わせて開発された。
これにより、世界中に広がるほぼ無限大のHIVウイルスに対して、より良い免疫効果が期待できるとされている。

無作為抽出や二重盲検、プラセボ対照といった条件で行われた臨床試験では、科学者はさまざまな組み合わせのモザイクワクチンを健康でHIVに感染していない18〜50歳の被験者に投与した。

被験者は米国やルワンダ、ウガンダ、南アフリカ、タイ出身者で、48週間で4つのワクチンを投与された。
その結果、全てのワクチンの組み合わせでHIVに対する免疫反応が構築され、いずれも安全が確認された。
科学者はこれと並行して、アカゲザルにこのワクチンを摂取させ、HIVと似た類人猿免疫不全ウイルスを予防するかどうかを調べた。その結果、72匹のサルの67%がウイルスによる罹患から免れた。

この研究の主著者で米ハーバード大学医学大学院医学教授のダン・バロウチ氏は「これらの結果は重要なマイルストーンを示している」と話した。
バロウチ教授は一方で、この研究結果は気をつけて解釈しなければならないと警告した。
ワクチンは摂取した人々の免疫系の反応を誘発するが、それがウイルスと戦い感染を防ぐのに十分かは明らかになっていない。
バロウチ教授は、「HIVワクチン開発に関する困難は前例のないもの。HIVに特化した免疫反応を起こせたとしても、それがヒトのHIV感染を防ぐことにつながるとは限らない」と付け加えた。

「期待できる兆候」

それでも、臨床試験で期待できる結果が出たことで、科学者たちは次の試験に乗り出すことができる。南部アフリカでHIV感染の危機にある2600人の女性に対し、ワクチンの「有用性試験」を行う。
有用性試験の段階まで来たワクチンはこれまでに5種類のみ。HIV予防に有効だという結果が出たワクチンはたった1種類だ。
タイで試験されたこのワクチンは、ヒトのHIV感染率を31%引き下げた。しかし、一般利用するには効果が低すぎるとされている。

英国のエイズ患者支援団体テレンス・ヒギンズ・トラストの医療ディレクター、マイケル・ブレイディー医師は、ワクチンはまだ黎明(れいめい)期にあるが、「期待できる」兆候があると話す。
「しかし、有効なHIVワクチンが流通するまでにはやるべきことが沢山あることに注意し、明確にすることが大事だ」
さらに、避妊具やHIV陽性の人から第三者にウイルスが感染するのを防ぐ医薬品など、エイズ拡大を防ぐ有効な手法はすでに確立されていると述べた。

(英語記事 HIV vaccine shows promise in human trial)