https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180827-00010000-nknatiogeo-sctch
■侵略的外来種が公衆衛生に悪影響を及ぼす可能性、米国で確認
 米カリフォルニア州南部を含め、世界中のさまざまな場所で侵略的外来種として扱われているアメリカザリガニ(Procambarus clarkii)。
今回、学術誌「Conservation Biology」に発表された新たな研究によって、アメリカザリガニが人間にとって有害である可能性が明らかになった。
ザリガニが増えることで蚊が増え、蚊が媒介する病気のリスクが高まるかもしれない。

 アメリカザリガニの原産地は米国南東部の沼地だ。しかし、現在では、オーストラリアと南極を除くすべての大陸に広がり、生態系を乱し、
在来種の脅威となっている。また、人間が感染する寄生虫である肺吸虫の中間宿主でもある。
「アメリカザリガニが穴を掘ることで、土の堰堤などに被害が出ることもあります」と、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の生物学者
エリック・ラーソン氏は話す。さらに、アメリカザリガニが水草を食べてしまい、澄んだ湖沼が濁ってしまうこともあるという。
「その土地原産のザリガニを駆逐し、それに取って代わることも少なくありません」。なお、氏は今回の研究に関与していない。

 論文の筆頭著者で、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のゲイリー・ブッチャレッリ氏らの研究グループが、カリフォルニア州のサンタモニカ山地で
ザリガニを駆除していたときのこと。ザリガニがいる場所ほど蚊の幼生も多いことに氏らは気がついた。

 アメリカザリガニの悪評もあり、これは注意を引いた。
ブッチャレッリ氏は、「ザリガニがいる場所では、ヤゴはほとんど見つかりませんでした」と言う。
ヤゴは水中で生活するトンボの幼虫で、蚊の幼生をたくさん食べる。

 研究グループは、サンタモニカ山地で13カ所の川を調査した。そのうち5カ所は、外来種が侵入した記録がないか、近年駆除に成功した場所だ。
残りの8カ所には、1960年代からアメリカザリガニがいたことがわかっている。アメリカザリガニは、そのころからカリフォルニア州南部で見られるようになった。
釣り人が余った餌のザリガニを放したためではないかと考えられている。

 案の定、ザリガニのいない川にはヤゴがたくさんおり、蚊の幼生は少なかった。
その逆も当てはまり、ザリガニのいる川では蚊の幼生が多く、ヤゴが少なかった。

■「恐怖の光景」に怯えるヤゴ
 ザリガニのせいで蚊が多いのかを調べるため、グループは研究室の水槽にこの3者を異なる組み合わせで入れてみた。
ヤゴは、単独ではザリガニ以上に蚊の幼生を効率的にがつがつと食べた。しかし、ザリガニと同じ水槽に入れると、ヤゴの見事な腕前は鳴りを潜めた。

 ザリガニは、ヤゴを捕まえて食べるだけではない。体の大きいザリガニがいるだけで、ヤゴは怯えて気をとられ、蚊の幼生を食べなくなってしまうのだ。

 ヤゴは、ザリガニがいるだけで「恐怖の光景(landscape of fear)」と呼ばれる状態に陥る。
すなわち、捕食者がいることで、怯えた獲物がおかしな行動をとり、その影響が生態系全体にまで及ぶこともある。
たとえば、イエローストーン国立公園にオオカミが戻ってきたとき、用心深くなったシカが食事のパターンを変え、若い芽をあまり食べなくなり、
植物の背丈が高くなった。

「在来種のヤゴは、アメリカザリガニに適応する方法を知りません。そして、不適応な行動をとってしまいます」とブッチャレッリ氏は言う。
たとえば、ザリガニのハサミなどの奇妙な場所に留まったり隠れたりして、危険な状況に身を置いてしまう。

 蚊が増えるのは人間にとっても問題だ。ロサンゼルス近郊に生息する16種類の蚊のうち、人間の病気を媒介しないのは1種類しかいない。
ブッチャレッリ氏は、外来種のザリガニが公衆衛生に影響を与えると認めることは、未知の領域だと感じている。
今回の研究には関与していない米ワシントン大学の病理生態学者チェルシー・ウッド氏も、同じように感じている。

「この研究を目にして、とても興奮しました」とウッド氏は言う。
「私は、長いこと病気の研究は医者の領分だと考えていましたが、医者は人間の患者のことしか扱いません。
私たちは、人間の病気のリスクにも影響する生態学的な相互作用について発見しつつあるのです。非常に興味深いことです」

 人間が肉食動物を駆逐するときも同じと言える。結果的に小型の哺乳類が増加するにつれて、ライム病を媒介するマダニが増える。

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