自身もトランスジェンダーで、今年15万人を動員した日本最大のLGBTプライドパレードを運営するNPO法人・東京レインボープライドの共同代表理事を務める杉山文野が、「いま、なぜダイバーシティが必要なのか?」をテーマに、第一線で活躍する人々と実体験を語りあう、対談連載。

第2回目のゲストは、リンクトイン日本代表の村上臣。ヤフーで執行役員としてダイバーシティ施策を推進し、2017年末からリンクトインに在籍する。LGBTへの配慮が注目される昨今、企業のトップはどのようにダイバーシティを推進すべきなのか。

企業の男女比を社会と同じにしないと、現実的な意思決定はできない

杉山:村上さんはヤフーの執行役員を経てから、リンクトインに移籍されました。まずは、リンクトインのダイバーシティについて教えてください。

村上:日本のリンクトインでも、シリコンバレーのダイバーシティを参照しています。アメリカの企業は社員の国籍がバラバラなのが当たり前なので、LGBTも特別な要素ではなく、たくさんある多様性の一つとして扱われています。

性別も違えば、国籍も違う。中には肉を食べない菜食主義者の人もいて、食も文化も全然違う。日本やアジアではダイバーシティが難しいことだと思われがちなので、まずはその土台から作っていきたいですね。

杉山:欧米と日本では、多様性の考え方は大きく異なりますね。では、実際に日本オフィスでどのような取り組みをしているのでしょうか。

村上:メンバー構成に男女をはじめとしたメンバーの属性の比率を重視しています。採用時にも、できるだけ男性と女性の割合を半分半分になるようにしています。

また、人材ビジネスなので人間関係をとても大事にしており、月に一度は仕事をせずにメンバーで交流する日があります。8月は「リレーションシップ」をテーマに、みんなでサバイバルゲームをしました(笑)。

東京医科大が入試で女性の評価を下げていたことが発覚したときに、「むしろ女性の方が優秀だ」という反論もありましたが、僕はあまりこの考え方は好きではありません。そうではなく、会社の人口比を現実世界と同じにすることで、正しく意思決定できる環境をつくることが大切だと思っています。

採用面接で、当事者に失望されていないか?

杉山:ヤフーではどのような経緯でLGBT支援が始まったのでしょうか。

村上:最近はLGBTにオープンな人が増えてきたので、採用面接でも、当事者の学生から「LGBTでも安心して働けるのでしょうか」と質問されることが増えてきました。ここで満足してもらえる回答をしないと、優秀な学生を逃してしまいます。

中略

差別している人の「自分はLGBTに関係ない」という意識

杉山:差別をしている人が、LGBTについて「知らない」からこそ、悪気のない差別をしている現状はありますよね。僕も自身がトランスジェンダーであることをカミングアウトするときに両親と揉めたことがあったのですが、その時に「ごめんね、知らなかったのよ」と言われました。

「知らない」ことが当たり前だった年代の人たちがいることはわかりますが、今は情報も手に入れやすくなったので、段々「知らない」では許されない社会になってきたと思います。

村上:まずは、多くの人が無意識のうちに異性愛を前提にしてしまっていることに気づいてほしい。独身の男性社員に結婚や彼女のことをずけずけ聞き、飲み会の二次会ではキャバクラに行くというような、「男はみんな女が好き」を前提にした男社会の空気を変えたいんです。

杉山:今企業で力を握っている世代の男性には、意識せずにそういうことを言ってしまう人も多いですよね。

村上:これは知らないことを理由に悪意なく差別をすることと同じです。でも、彼らは本当にLGBTについて知らないし、そういうことは自分には関係ないと思っている。研修では講師からていねいな説明を受けても、結構な人数の男性が「自分の周りにそういう人はいないし、見たこともない」と本気で言うんですよ。

社内研修の講師を男性社員に任せていたことがあったのですが、実は彼が社内でカミングアウトをしていなかったLGBT当事者で。彼が「LGBTは実は皆さんの近くにいるんですよ。実は僕、ゲイなんです」と言うと、みんな椅子から転げ落ちるくらい驚いていました。

杉山:そういう驚きを経験することで、身の回りにLGBT当事者がいるかもしれないと思ってもらえるのなら、やはりカムアウトは大切ですよね。社内だけではなくて、取引先やお客様の中にも必ずLGBT当事者の方はいるはずです。

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