2018年11月16日 06時00分

 2020年の東京五輪に向けた建設需要増加に伴い15年から建設業と造船業で受け入れている緊急雇用の外国人労働者について、国土交通省が企業側の雇用実態を把握しているにもかかわらず、公表していない。同省は「調査の目的は公表ではなく企業の指導」としているが、緊急雇用は政府が来年4月の創設を目指す新たな在留資格と類似点が多い。野党側からは「日本人よりも給与水準が低いなど不都合な実態が明るみに出るのを避けようとしているのでは」と疑問の声が上がる。

 外国人の緊急雇用は14年6月に閣議決定。建設業との雇用流動性があるとして造船業も対象にした。受け入れるのは外国人技能実習制度の修了者で、いったん帰国後に再来日すれば、在留資格「特定活動」を付与する。

 企業側には労働関連法令の順守のほか「同じ能力を持つ日本人従業員と同等の報酬」が義務付けられており、雇用には国交省の認定が必要になる。今年9月末時点で建設業は1473社に4011人、造船業は約240社に2740人の緊急雇用外国人がいる。

 国交省が公表しないのは、企業が認定申請の際に提出した労働条件を守っているかどうかをチェックする調査だ。委託された業界団体が企業を訪問して調べるが、同省は報告を受けており、各企業の雇用実態を把握。これに基づき悪質な場合は企業の認定を取り消すこともある。

緊急雇用は技能実習生から移行することや、能力が同等の日本人と同じ賃金水準を保障する点で、入管難民法改正案に盛り込まれた新たな在留資格と重なる「先駆的な制度」(国交省幹部)。建設業と造船業は熟練した能力を条件に長期滞在を認める「特定技能2号」の対象としても想定され、調査結果の公表は国会審議に役立つとみられるが、国交省は「企業名を伏せて違反件数のみを発表する予定もない」という。

 技能実習制度を巡っては長時間労働や賃金未払いなどが横行し、実習生の失踪も多発している。参院法務委員会の野党議員の一人は「緊急雇用も同様の実態がある可能性がある。政府には公表を強く求めたい」としており、国会審議で政府が公表を迫られる可能性もある。

=2018/11/16付 西日本新聞朝刊=

https://www.nishinippon.co.jp/sp/feature/new_immigration_age/article/465957/