<首都圏発生>建設残土が船で三重へ 事実上の「投棄」
11/16(金) 8:14 掲載 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6303517

 ◇年間26万トン 土砂条例がない三重県が“標的”か

 首都圏を中心に発生した建設残土が、400キロ近く離れた三重県に船で年間約26万トン運ばれ、県南部の紀北町などに事実上、投棄されていることが毎日新聞の取材で分かった。土砂条例がない三重県が“標的”になっているとみられる。都心の再開発などで発生し、最終処理が確認されていない膨大な残土の行方の一端が判明するのは異例。投棄先の地元住民は「残土業者に地方の環境を破壊され続けている」と訴えている。

 毎日新聞の情報公開請求で開示された三重県の資料などによると、残土運搬船は6年ほど前から長島港(紀北町)と尾鷲港(尾鷲市)へ入港。陸揚げ量は毎月計約2万トン、今年9月までの1年間は計約26万トンで、神奈川県の横浜港、横須賀港からが目立つ。三重の両市町で残土がある造成地は、搬入を終えた場所を含め計9カ所。7カ所が長島港の4キロ圏にある。

 受け入れている紀北町の2業者が県に任意提出した資料では、残土の発生元として▽北関東防衛局が発注した東京・六本木の米軍基地「赤坂プレスセンター」掘削工事▽東京・大手町にある地上32階・地下3階の超高層ビル建設工事▽横浜市の京急金沢八景駅改築工事などがあった。北関東防衛局は「残土は施工業者が都内処分場に運んだのを確認した。その先は関知していない」と説明する。

 国土交通省の2012年度資料によると、全国で年間に発生する建設残土量の3割の約9000万立方メートル(1立方メートル1・8トン換算で1億6200万トン相当)が最終的にどう処理されたか詳細は把握されていない。

 業者の関係者は毎日新聞の取材に「林地開発の許可や農地改良の届け出で山林を『捨て場』にできる」と、事実上の投棄だと認めた。関東の1都6県と5政令市は土砂条例が適用され、搬入面積により許可制にするなど歯止めをかけている。三重県や両市町に条例はなく、関係者は「ここは無法地帯。今後も投棄場所は増えていく」と指摘する。

 船での大量運搬は陸路より割安で港から1日何往復もできる安い山林がある点も要因。付近住民は「捨て場が増え続け、土砂による汚染や崩落が心配」と話す。

 三重県議会では15年、土砂条例制定を求めるNPO法人の請願を採択したが、議論は進んでいない。県担当課は「必要な行政指導は行っており、条例は直ちに必要ではない」との立場だが、紀北町は条例制定の検討を続けている。

 国交省によると残土の崩落事故は01〜15年に14件で09年に広島県で死者も出た。今年7月の西日本豪雨では、京都市で大量の残土が崩れ住宅地に迫る事故も起きた。国に法規制を求める声も強いが、所管が複数官庁にまたがり法制定の機運は高まっていない。【飼手勇介】

 ◇高齢化の町、つけ込まれ

 東京のオフィス街再開発の建設残土が海上輸送までされ、遠く三重県の山林に投棄され続けている。今回明らかになったケースは氷山の一角に過ぎず、他にも規制の弱い自治体が“残土ビジネス”に狙われている可能性は大きい。

 三重県尾鷲市の尾鷲港に10月末のある朝、積載量2300トンの運搬船が横付けされていた。搭載クレーンが船上の黒い残土をつかみ取り、仮置き場に積み上げ、トラックに積み替えられる。

 北側にある長島港(同県紀北町)の4キロ圏には7カ所の捨て場があり、そのうちの一つは、国道脇を切り開いた山林斜面に残土が積み上がり、ふもとには住宅もある。
 関係者によると、有料で受け入れる“残土ビジネス”で利益を見込んだ業者が5年ほど前、約7万平方メートルの山林を購入して残土受け入れを始めた。高齢になって手入れできず、荒れてしまった農地や山林を高く買い取ると言えば、飛びつく住民は少なくない。捨て場を自宅裏に作ることに同意した住民に多額の使用料が支払われたケースもあったという。
 量や種類で異なるが、船1隻分の残土の受け入れ金額は80万〜120万円。有償で引き取ってもらう残土は「産業廃棄物」に等しいはずだが、「再利用が可能」として投棄を厳しく規制する廃棄物処理法の対象外だ。
 毎日新聞の集計では、47都道府県と20政令市のうち32自治体に土砂条例が適用されている。規制の緩い自治体に投棄された残土の崩落事故が各地で発生しており、広域的な対応や「条例では罰則に限界がある」として法整備を求める意見は根強いが、国土交通省は「自治体ごとに状況や地形が異なる。条例で対応するのが基本」と後ろ向きだ。
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