2018年11月18日 06時00分

 宇宙誕生の謎に迫る次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の国内誘致の是非を巡る議論が大詰めを迎えている。本体の建設候補地は東北だが、一部施設が九州に設置される可能性もある「オールジャパン」の超大型計画。東北や政界の誘致活動は熱を帯びるが、膨大な費用から慎重な意見も少なくない。学識者の委員会が近く意見を出し、それを基に政府が年内にも誘致の可否を判断する見通しだ。

 13日、衆院議員会館。ILCの国内誘致を目指す超党派議員連盟の総会には、政治家や学者、報道陣など100人以上が詰めかけた。

 「科学技術立国を目指すにはこれ以上の計画はない。日本が挑戦したことのないものに挑戦していく。政治の判断も必要になる」。会長の河村建夫・元官房長官は力を込め、政府がILCを国家プロジェクトに位置づけるよう、働きかけを強める考えを示した。

 建設費は約8千億円。欧米など複数国による国際プロジェクトを想定するが、誘致した国が半額程度を負担する。通常の科学技術予算では賄えない額で、河村氏らは「別枠の予算措置を講じることが必要だ」と訴えている。

 世界中から数千人の科学者や技術者が集まり長期滞在することから、経済効果は2兆円強と試算されており、東北経済連合会の高橋宏明名誉会長は「東日本大震災からの恒久的な復興プロジェクトでもある」と実現に期待を寄せた。

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 数年前まで、九州もこの熱気の渦の中にあった。

 ILCの建設には強固な地盤が必要条件で、北上山地(岩手、宮城)と脊振山地(佐賀、福岡)の地元自治体が名乗りを上げ、経済界を巻き込んで誘致を競った。脊振山地は標高差が大きいことやダムの下を通ることから建設費と工期が膨らむとされ、2013年に研究者グループは北上山地を候補地に選んだ。

 とはいえ、九州がまったく無縁になったわけではない。実験装置の本体で得られたデータを測定する別の施設が必要で、その候補地に福岡周辺が挙がっているからだ。

 ILCに詳しい有識者は「九州はアジアに近く、中国などの研究者が行き来しやすい。災害時の危機回避を考えれば東北や関東から離れているのも地の利がある」と説明する。測定施設での研究にも約100人の科学者の常駐が見込まれ「経済効果は東北にとどまらない」という。


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 ただ、計画の実現性は微妙な状況となっている。

 国際研究組織は昨年、実験装置を全長約30キロから約20キロに縮小するよう計画を見直した。その計画の妥当性について、文部科学省から依頼を受けた日本学術会議の検討委員会が審議しているが、現段階での結論は誘致に慎重な意見になりそうだからだ。

 検討委は、巨額の予算を伴う超大型プロジェクトに見合う学術的な意義がそもそもあるのか、関係する素粒子物理学者の間で意見が分かれていることや、他分野の研究者への説明不足などを指摘している。

 これまで推進派は福岡と佐賀を含む全国各地でシンポジウムや出前授業を開いて計15万人を集めたが、国民に広く理解が浸透しているとも言い難い状況だ。

 14日、報道陣の取材に応じた家泰弘委員長(日本学術振興会理事)は「知の探求とはいえ、原資は国民の税金。どこまで理解を得られるか」と表情を曇らせた。

【ワードBOX】国際リニアコライダー(ILC)

 ビッグバン(宇宙創成直後)の状態を人為的に再現する次世代の実験装置。地下約100メートルのトンネル内に直線型の加速器を設置し、素粒子の電子と陽電子を超高速で正面衝突させ、生まれる粒子を調べる。物質に重さを与える「ヒッグス粒子」の詳細分析につながるとされ、宇宙に大量にある正体不明の暗黒物質(ダークマター)の解明も期待されている。

=2018/11/18付 西日本新聞朝刊=
https://www.nishinippon.co.jp/sp/nnp/national/article/466457/